マグリットの超幻想的世界
2016年 12月 14日 水曜日
現在読んでいる「シュルレアリスト精神分析」(藤元登四郎著 中央公論事業出版)の3人目に登場する画家はベルギー生まれのルネ・マグリットです。マグリットの生い立ちの中で彼自身が語る次の文章に、その後の創作活動を示唆するものがあります。「私が体験し、記憶に留めている最初の感情は、神秘の感情である。ある日、私は自分が眠っている揺りかごのそばにあった箱をみていて、その感情を覚えた。その箱は私が目にした最初のものであった。私にとっては、それは、視覚世界の最初の現れである」というものです。文中に文筆家渋澤龍彦によるマグリット評があり、マグリット絵画は熱狂的なものが取り除かれていて、一種の哲学的絵画であることを指摘しています。「たとえ女の裸体が描かれていても、それは肉の官能性の輝きを賛美するために描かれたのでもなければ、また作者の欲望や感情や、潜在意識やコンプレックスの投入されたものでもあり得ないから、この冷たい裸体は要するに、ただのオブジェにしかすぎないのである」と渋澤は語っています。冷静に事物を捉えつつ、またイメージを裏切っていくマグリット絵画は「一般に、眼は物の表面や形にだまされて、その裏側にある神秘を忘れさせてしまう。マグリットにとって、絵は現実をコピーするのではなく、哲学者のように思索し、『神秘を呼び出す』ものであった。」と著者も綴っているように、マグリット絵画のユニークな特徴が今までの引用で浮き彫りになっています。さらに引用を続けます。「マグリットが、ある異様な天性の感覚を持っていることは確かである。すでに述べたように、彼の最初の記憶は、揺りかごのそばにあった箱であり、母親の顔ではなかった。また、隠された物をみることができるともいっている。彼が、この異様に研ぎ澄まされた感覚で、意識が眠りに隠されようとする瞬間に、その向こう側を感じ取ることができたこともあり得ることである。」