東京上野の「クラーナハ展」

東京上野にある国立西洋美術館は、金曜日に開館時間を延長していて、仕事帰りに立ち寄れるので有り難いと思っています。先日は職場で午後年休をもらって幾つかの美術館を回り、最後に国立西洋美術館に辿り着いたのでした。夜になっても「クラーナハ展」には大勢の人がいました。日本でルカス・クラーナハは知名度がないと思っていたので、鑑賞者は疎らではないかと想像していました。クラーナハ絵画の独特な表情や肢体をもつ裸婦像に魅了されている人が、日本でも増えているのは嬉しい限りです。私は30年前、ウィーン国立美術アカデミーに学んでいました。同校付属美術館にクラーナハの絵画がありましたが、そこから環状道路(リング)を歩いて数分のところにウィーン美術史美術館があって、クラーナハのコレクションが充実していました。今回来日していたクラーナハの絵画は、その特徴を余すところなく表出していて、北方ルネサンスの中核を担った巨匠の世界を堪能できました。クラーナハの工房で請け負った絵画は数多く「もっとも素早い画家」と称えられていたようです。図録には生産力向上の工夫が書かれていて興味をそそられました。「この高い生産力は、ヴィッテンベルグの工房内で制作作業の合理的な経済化と規格化がはかられたことによって可能となったものである。顧客の需要をほかと比べて速く充たすため、規格化された絵の寸法や構図、ならびに定型化された人物像や風景モティーフからなる、とても狭く限定された表現のレパートリーが導入された。これらのレパートリーは積み木のようにもちいられ、簡単に変化をつけることができた。絵画の仕上げはしかし、もっぱら効率化された作画技術の導入によってのみなされたのではなかった。そうした手法とならんで、クラーナハは宮廷画家の任務を引き受けてからわずか数年にして早くも、さまざまな協働制作者たちが容易に適用できる、なかば拘束力のあるひとつの工房様式を確立したのである。」(グイド・メスリング著)職業画家だったクラーナハは、同時代に版画を頒布して名声を得ていたA・デューラーに匹敵するほど広域にわたって絵画を提供していたのでした。

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