「発掘~盤景~」と「構築~視座~」について

今年の7月個展に出品する新作のタイトルを「発掘~盤景~」と「構築~視座~」とつけました。「発掘~盤景~」は発掘シリーズとして私の作品の中核を成すもので、陶彫部品を組み合わせる集合彫刻にしています。デビュー作品である「発掘~鳥瞰~」から20年以上もこの連作を続けてきました。20代の終わりに5年間続いた海外生活にピリオドを打って、日本に引き上げる際、エーゲ海沿岸の古代遺跡を見て廻りました。その時受けた啓示が作品イメージの源泉となり、現在も連作として続いているのです。陶彫という技法に取り組んだのは、古代遺跡のイメージを具現化するためでした。日本には陶芸に関する長い歴史があり、各地に窯場がありますが、そんな豊かな環境にあっても焼成を伴う陶の扱いは難しく、当初は何度も失敗を繰り返していました。現在読んでいる「中空の彫刻」(廣田治子著 三元社)にこんな文章があります。「ゴーギャンは素朴で鄙びた味わいをもつ民衆的な素材である炻器の粗い表面と硬く焼き締まったプリミティフな感覚を好み、これを生かすために機械的手段である轆轤は用いず、時には紐状の陶土を巻き上げる『紐作り』の技法によって、時には板状の陶土を貼り合わせる『板づくり』の技法によって立体を成形した。」これによると私が夢中で取り組んでいる陶彫を最初に始めたのは、20世紀初頭の画家ゴーギャンだったようで、私が西欧との関わりから陶彫に辿りついたのは、あながち偶然ではなさそうです。「発掘シリーズ」は、地中から掘り出された発掘現場を見て、埋没している部分と地上に現れた部分を空間の座標として捉えたものですが、地上に完全に立ち上げたものを、「構築シリーズ」として始めたのは2009年に発表した「構築~起源~」からです。これは主に木彫を用いて制作してきました。今夏発表をする「発掘~盤景~」と「構築~視座~」は、2つの異なるシリーズを併置いたします。私の空間に対する思考が行きつ戻りつしている状況を見せることになりますが、ひとつの要素を突き詰められない不安が私の内面にあることも確かです。先行きが見えない世相が多少なりとも反映している証かもしれません。ただし、創作活動は内面に篭って思索することが多く、コロナ渦の中でもモチベーションは保っていられるのです。

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