「マン島のクロス」について
2019年 11月 22日 金曜日
「呪術としてのデザインー芸術民俗学の旅」(中嶋斉著 彩流社)の第1章の1「マン島のクロス」についてのまとめを行います。職場の私の部屋に本書を暫く置いていたのですが、「モディリアーニ」を読み終えた後、鞄に携帯するようになりました。職場にあってもなかなか読める機会が少なく、通勤中の方が読書に向いていると思ったのです。本書で最初に取り上げられていたのがアイルランドやスコットランドに残るケルト文化に関するもので、実は最近になって私は大変な関心を寄せています。ケルト高十字架や石碑(クロス)の図版を見て、私はこの地を訪ねたい欲求に駆られました。マン島は英国とアイルランドの間にある島で、ヴァイキングの遺跡の宝庫だそうですが、素朴なケルト文化も残っています。「現在この丘(ティンワルド)には新しいケルト高十字架が立っている。頭部の十字を円環でつなぐ車輪十字のそれである。しかしマン島には高十字架よりも、聖地や墓所にたてられていた特異なクロスが残っていて、素朴な時代の信仰のあとを刻んでいる。」クロスに刻まれた文様で私が興味を持ったのは組紐文様です。「ここで最も注目をひく特徴は、組紐文様の多様さであり、また綿密で精巧なことであろう。人物や動物の描写よりも、三つ編みに仕上げ、また長く輪をつなぎあわせて、それらの文様が石碑の表面を覆いつくすのである。」ケルト文化がキリスト教と同化し、ケルト系修道士が広めた宗教組織の中で、マン島のそれは純朴さを残したものであったことが最後に語られていました。「見上げるようなアイルランドの高十字架が、体系と組織をもった宗教のシンボルであるのに比して、マン島のクロスはしみじみとした人性のそれのように見える。キリスト教が華々しい西欧文化の先導者としてヒューマニズムに踏みこんでいくとき、アニミズムは常に決断を躊躇しながら、その深い情念の故に、宗教よりも限りなく芸術に近づいていく、マン島のクロスは、そうした心の象徴であるように思えるのである。」