「モディリアーニ 夢を守りつづけたボヘミアン」読後感

「モディリアーニ 夢を守りつづけたボヘミアン」(ジューン・ローズ著 宮下規久朗・橋本啓子訳 西村書店)を読み終えました。ボヘミアンとしての芸術家の代名詞ともなっているモディリアーニ。確かに物語として脚色するのに事欠かないエピソードがあって、斬新な絵画だけではなく、モディリアーニその人にも注目される要素が満載です。私は前から縦長の首の彫刻に惹かれてきましたが、健康が芳しくない中で石彫を諦めざるを得なかったモディリアーニの生涯が本書によって分かったように思います。「モディリアーニは生涯を通じて懸命に目的をもって制作したが、脆弱で、成功せず、評価もされなかった。彼は女性を愛し、女性に愛された。酒を飲み、麻薬に手をつけた。しかし、それは彼の人間を決定するわけではない。また、彼の作品、特に、官能的なヌードは別にして、曖昧な背景をもつ室内の単身像にほぼ作品が限定されて以降の作品が、一貫して高い密度を保っていたことも、それでは説明できない。彼は作品の中で、時代の潮流に背を向け、流れるような独創的な線描を用いて、過去のさまざまな芸術の中から自分の様式を発見した。」著者であるジューン・ローズが綴ったこの文章にモディリアーニの芸術が凝縮されているように思います。翻訳の担当者があとがきで述べている文章で「モディリアーニ 夢を守りつづけたボヘミアン」を締め括りたいと思います。「英雄でもならず者でもない、矛盾に満ちた一人の繊細で純粋な男の生きざまと、それをいろどる人間模様のあやが、当時のパリの時代相の中できわめてリアルに塑形されているのである。悲劇の天才芸術家というより、俗なる『ボヘミアン』としての人間モディリアーニの伝記の決定版といっても過言ではないだろう。」(宮下規久朗著)

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