「モディリアーニ」第5章のまとめ

「モディリアーニ 夢を守りつづけたボヘミアン」(ジューン・ローズ著 宮下規久朗・橋本啓子訳 西村書店)の第5章「大戦下のパリでの出会い」をまとめます。冒頭の文章に「モンパルナスの芸術界の人間で、モディリアーニのことを知らなかったり、彼と酒を飲んだり、彼にスケッチされたことのないものは誰一人としていなかった。」とありました。それほどモディリアーニの行動は評判になっていたようですが、こんな一文もありました。「彼はその頃でさえ自分がパリでは門外漢であることを意識していた。彼は友人や恋人たちに対しては、常にユダヤ人であることを明らかにしていたが、そうすることで、あらかじめ拒絶されるのを制しようとしたのであろう。批評家たちは、彼が純粋に新しい才能を求めて躍起になっている芸術家の一人であることに気づいていた。『彼は自作を発表することについて決して悩んだりしなかったし、周囲の作家のやり方を盗むようなことも決してしなかった。彼は自分一人で、自分自身のために生きていたのだ』」さらにこの章では重要な人物との出会いが語られています。その人は批評家で詩人だったベアトリス・ヘイスティングスでした。「『パリに行けばいい。モディリアーニという美男で天才の画家がそこにいるよ』35歳のベアトリスは豊かな胸に小さい頭、華奢な体つきといったモダン女性の容貌を備えていたが、実際彼女はモダンな女性であった。」ピカソはベアトリスのことを女性詩人、モディリアーニのことを酔っ払いと評していましたが、ベアトリスのこんな語りがモディリアーニとの出会いを表しています。「複雑な性格の持ち主。豚に真珠。1914年に安レストラン(ロザリーのこと)で出会う。私は彼の向かい側に座っていた。ハッシシを吸い、ブランデーを飲んでいた。彼にはまったく興味を覚えなかったし、一体誰なのかもわからなかった。酷く、残忍で強欲な人間にしか見えなかった。カフェ・ロトンドでふたたび会う。鬚を剃っていて、魅力的だった。可愛らしい仕種で帽子を取ったかと思うと、恥ずかしそうな目つきをして自分の作品を見にきてくれといった」その後の2人は蜜月状態が暫し続きます。「この頃のベアトリスはモディリアーニのすばらしい伴侶であった。彼女は趣味がよく、機知に富み、文学に精通しているだけでなく哲学にも興味を持っていた。それらはすべてモディリアーニの好みに合致していた。彼女は『ニュー・エイジ』の編集主幹として、新進の詩人や作家たちを奨励し、彼らを積極的に取り上げた。彼女がモディリアーニをよくも悪くも刺激し、彼の制作活動の触媒のような役割を果たしていたことは確かなようだ。」それから2人の関係がギクシャクしてきますが、モディリアーニの代表作はこの時期に制作されているのでした。

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