「ルドン 私自身に」読後感

「ルドン 私自身に」(オディロン・ルドン著 池辺一郎訳 みすず書房)を読み終えました。本書の中に収められた「芸術家のうちあけ話」はルドンの自叙伝ですが、両親や彼を取り巻く友人がほとんど登場しない内面的な回顧になっています。それはルドン自身が神秘的で内在的な世界に辿りつく過程にも通じていて、なるほどルドン自身が自分の生い立ちに対し、こんな描き方をするのかと納得してしまいます。日記として他の芸術家を取り上げて批評を試みている箇所は、ルドンの優れた鑑識眼に驚くばかりです。現代の視点からすれば理解可能な芸術観の価値の変遷が、自身の生きた時代に先見性のある理論をもって著されていることに、ルドンの芸術の本質を掴む思索家としての力量を感じさせます。芸術家本人が著したものとしては読み応えのある一冊だと思いました。

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