戦時下のシュルレアリスム

短い通勤時間の中で長い時間をかけて「アンドレ・ブルトン伝」(アンリ・ベアール著 思潮社)を読んでいます。ブルトンの生きた時代は、戦前の政治不安がやがて第二次大戦勃発となり、ブルトン自身もアメリカ大陸に亡命を余儀なくされた時代です。アメリカやメキシコ等近隣諸国での芸術家との交流、シュルレアリスムの講演会等々様々な機会を捉えて、ブルトンがシュルレアリスムの意義を唱えていく過程が描かれていて、シュルレアリスムが時に政治や革命の扇動に利用された場面があって、文学や美術の世界に留まらない大きな動きの中でシュルレアリスムが生きてきた様子がわかります。シュルレアリスムは本文中の言葉を借りれば「詩的精神にささえられてたえずみずからを更新すること」「なによりもまず精神状態であり、オートマティスムによる象徴的で幻覚的なアプローチ」となり、「人間の社会解放にできるかぎり力を貸すこと、風俗習慣の完全な清算に休みなく努めること、人間の悟性を作りなおすこと」であると説いています。戦時下でも亡命中のブルトンが提唱を止めなかったシュルレアリスム。著書はラストシーンである戦後に続きます。

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