映画「ロダン カミーユと永遠のアトリエ」雑感

近代彫刻の祖であるオーギュスト・ロダンは、彫刻を学ぶ者にとって避けて通れない存在です。私も例外ではなく、ロダンの鋳造された代表作を日本の美術館が数多く所蔵していることを学生時代から喜んでいました。ロダンの生き生きとした肉体の量感を見る度に、20代の頃の私は立体把握の不甲斐なさを嘆いていましたが、最近になってロダンという人物に迫る映画が、没後100年を記念して作られたことに喜びが隠せませんでした。早速、横浜の中心街にあるミニシアターに「ロダン カミーユと永遠のアトリエ」を家内を誘って観に行きました。40歳近くになって認められた彫刻家ロダンは、その先も物議を醸す作品を世に送り出し、それでも彼は微塵の妥協もなく、革新的な彫刻家として道を突き進んだのでした。ロダンを考えるうえで、弟子で愛人でもあったカミーユ・クローデルは欠かせない存在です。以前に彼女を主人公にした映画を観ましたが、本作でもロダンとの葛藤が余すところなく描かれていました。ただし、本作はあくまでもロダンを中心に扱っているため、内妻ローズのことも丁寧に描いていて、女性関係に揺れ動くロダンの心情が伝わりました。ロダンの塑造は官能性を秘めており、創作活動を展開する上で、造形行為と女性を愛することの繋がりは重要な骨子として表現されていました。「地獄の門」や「バルザック像」の制作過程を映像化した場面に、私は個人的な興奮を覚えました。広い大理石保管所を国からアトリエとして提供された場所も、撮影用の空間とは知っていながら、石膏の粉塵や匂いが立ち込める制作場所を想像しつつ、彫刻のモデリングを行う場所は自分にとって身近な場所だけに心が湧きたちました。その日は朝から相原工房で陶土と格闘し、手の罅割れも顧みず、夜の映画に行ったので、自分にとって朝から晩まで彫刻一辺倒になった素晴らしい一日だったことを記しておきます。

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