「作ることは、壊すこと」

今朝、職場に届いていた朝日新聞を捲っていたら、表題の小欄が目に留まりました。生物学者福岡伸一氏が書いたもので、「伊勢神宮と法隆寺、どちらが生命的だろうか?」という唐突な冒頭の文に誘われて、つい読んでしまいました。伊勢神宮は20年に一度新たに建て替えるのに比べ、法隆寺は世界最古の木造建築をそのまま保存しています。ですが、法隆寺は部材を少しずつ更新しているのです。福岡氏は「ちょっとずつ変える後者の方がより生命的ではないか。」と主張しています。生命は絶えず分解と合成を繰り返しているので、全取り換えは生命的ではないというのです。これは小欄ながら面白いなぁと思いました。破壊と創造は芸術家の特権で、生命感溢れるものを作るためにどの時代の芸術家も粉骨努力しています。多くの芸術家は、常に自己表現を破壊して新しい境地に達そうと紆余曲折の毎日です。私のその一人ですが、今まで培った全てを破壊する勇気はなく、それでも小さい部分を更新すれば伸びしろがあるのではないかと信じています。小欄にこんな一文もありました。「ところで世間では、しばしば、解体的出直し、といったことが叫ばれるが、解体しなければニッチもサッチもいかなくなった組織はその時点でもう終わりである。そうならないために、生命はいつも自らを解体し、構築しなおしている。つまり(大きく)変わらないために、(小さく)変わり続けている。そして、あらかじめ分解することを予定した上で、合成がなされている。」絶えず小さな破壊を繰り返して再生していく生命体。私も私の作品も生命的でありたいと願う毎日です。

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