「炻器と木彫」について

「中空の彫刻」(廣田治子著 三元社)の第一部「19世紀における『画家=彫刻家』と『芸術家=職人』の登場」の第2章「芸術家と職人」について「3炻器と木彫」のまとめを行います。副題に「民衆芸術に息づいていた素材の復活と『素材の尊重』」とあり、画家ゴーギャンが炻器と木彫に興味を持ち始めたことで、その結果として民衆芸術の復興に努めることになったことが分かりました。民衆芸術と近代彫刻の融合は、私にとっても面白いテーマであり、日本の民芸運動の中に私が新しい美意識を感じるのも、これとは無縁ではないと思っています。「(ゴーギャンは)はじめに彫刻家ブイヨのもとで大理石彫刻を二点制作した後、木彫を始めた。最初に古典的な《ヴィーナスの誕生》を制作するが、続いてドガの影響で現代的主題に移り、《散歩をする婦人、小さなパリジェンヌ》のように直彫りで手仕事の跡を残すような木彫を行ったことは興味深い。そこには木の素材にふさわしい表現を模索し、『素材の真実』を尊重する姿勢の表れを見ることができるだろう。」また当時、日本の器が紹介されたヨーロッパで、陶工と彫刻家を兼ねた作家たちが試行したものとゴーギャンは異なっていたことを示す文章もありました。「彫刻家として出発し、日本の炻器に魅せられて、日本風の器を制作したり、自らの彫刻を炻器で表現したりしたのはジャン・カリエス(1855ー1894)であった。炻器のもつ素朴な力強さを自らの表現に生かそうとした点で彼は、ゴーギャンと共通していた。しかしシャプレやカリエスが炻器を通じて日本の自然主義とも手を結ぼうとしていたのに対し、ゴーギャンは、終始西洋的な芸術理念に支配されていた。この職人的芸術の価値を高めようとしながら、それは彼らのような『芸術家=職人』としての意識に基づいたものではなく、自らはあくまで『芸術家』なのであった。」ゴーギャンが炻器や木彫においても斬新で特異な作品を生み出した背景はこんなところにあったのかなぁと思いました。これで第一部「19世紀における『画家=彫刻家』と『芸術家=職人』の登場」は終わります。

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