建築家等からの意見・感想②

「建築とは何か 藤森照信の言葉」(藤森照信他著者多数 エクスナレッジ)の第2部には、著者藤森照信氏の著作や建築を巡って、他の建築家や歴史工学家による意見や感想が掲載されていました。今回も前回同様に5氏を取り上げます。まず「保存しますか、建て直しますか」という隈研吾氏の問いかけに対し、「私は長く、建築史家として保存側でやってきた。今後もやっていくつもりだが、たとえば《歌舞伎座》(1924、改修1950)を建て替えたいが設計をお願いしますと言われたら、私の中の建築家は迷うだろう。迷うが、やはり、時間的蓄積は優良株みたいなもんで日がたてばたつほど価値は増すので手放さない方がいい、と依頼をことわるだろう。」次に重村力氏の発問です。「歴史学が一般に建築のもっともよい肥やしとなることは分かるけれど、それを超える創作の麹室のようなもの、それは非常に微妙で会得しがたいものだと思うのだけど、一体何があなたの『師のアトリエ』だったのでしょう?」これに対して著者は、「(建築は)目玉の土俵勝負である。建築が勝つか、建築探偵の目が勝つか。」と述べた後「自慢になるが、これまで私はそういう目玉の勝負を、古今東西の名作愚作に胸を借りるぶつかり稽古を何千番か繰り返してきた。訪れて、見て、聞いて、読んで、考えて、書いて、のサイクルを何千回も繰り返せば、誰だって何とかなるようになる。」3人目は内藤廣氏で、建築という言葉とアーキテクチュアという言葉は同義かどうかを尋ねていました。「建築とアーキテクチャーがちがうか同じかについて考えたことはありませんが、いづれにせよ、元をたどると発生源は同じはずです。私の今の関心は、領分や国や文化によってちがってしまったさまざまがまだ分化する以前までたどりつきたい、そこまで遡ってから作ってみたい。」4人目は歴史工学家中谷礼仁氏の発問で、著者が有する肩書きと宇宙遺産に関することです。「建築史家が一番気に入っているが、建築家的仕事や建築探偵的フィールドまで含めて新語をと言われても、急には思いつかないが、仮に”目力士”という仕事があったらやってみたい。”手力士”もいい。」宇宙遺産では「私が作るサンプルはすでにきめてある。土をただ積み上げただけの『土塔』です。表面には草を生やします。」という回答が返ってきていました。面白いなぁ。最後にサステイナブル・デザインを含めた質問を難波和彦氏がしていました。因みにサステイナブル・デザイン(Design for Sustainability)とは何か。それは未来の世代の暮らしについて考え、人類や地球環境が持つ能力を維持し、向上させることを言います。その基準問題以上に著者が考えているのは、そもそも建築家とは何をする人かという基本的なことでした。「私は、建築家の最後の生命線は表現にあると考えている。別の言い方をすれば、建築家は表現しか能がない。政治、経済、社会、技術、思想、世相、流行、などなどの諸条件、諸領域の中から建築は生まれてくるわけだが、そうした諸条件、諸領域のどれにも建築家は専門的ではない。他の助けを借りなければ何も実現しない。なのに、なぜ建築家が存在するかと言うと、それらをまとめて一つの形を与える人だからだ。形を与えるのが、建築家のただ一つの能なのである。」

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