師匠との関係について

長野県に住む彫刻家池田宗弘先生から雑誌「秘伝」が送られてきました。「秘伝」は武道に関する雑誌でしたが、私は武道に縁がなく、その精神性は分かったつもりでも理解できるところまでいっていません。池田先生は、大学時代に私に彫刻を教えてくれた師匠で、私の結婚式の仲人もやっていただきました。今でも池田先生に彫刻に関する指導助言を仰ぐことがあり、長きにわたって師弟関係が続いている稀な存在ではないかと思っています。ギャラリーせいほうから話があったのも池田先生の力添えがあったおかげと思っております。その池田先生は小野派一刀流を長年研鑽する武術家で、雑誌「秘伝」の巻頭インタビューに彫刻の写真とともに掲載されていました。「武術極意に通じる立体視という視点」というタイトルで、古流武術の極意と彫刻の造形論が交差する記事になっていました。その中で池田先生が師匠として仰いでいた彫刻家清水多嘉示は、ブールデルに師事した、日本では近代彫刻界屈指の人でした。「その師匠は素晴らしい作家で、素晴らしい作品を見せてくださったけれど、”まだ師匠がやっていないことがあるはずだ”と考える。次に自分には何ができるかを考え、さらに師匠のやっていないことを考えるわけ。私の師匠の清水先生は、まず粘土による量体(いくつかのサブユニットで構成された構造体)や組み立てということを伝えてくださった。それを忘れないようにしながら、粘土による量体のような、物がつまっているものじゃなくて、”抜けた空間があるもの”でも表現はできるんじゃないかと考えた。それが私がこの真鍮の仕事に辿り着いたきっかけなんです。」記事の中で、私はこの箇所に注目しました。大学時代、池田先生は自ら表現を私に押しつけることはありませんでした。立体としての構造の話はよくされていたので、清水流の造形論が生きて私に届いていたことになります。私も池田先生とは違う造形感覚を育てることになり、抜けた空間がある軽妙洒脱な池田流から、陶彫によって地を這っていく自らの世界観を培ったのでした。私のところでも若い彫刻家が育っていて、彼は木彫による鋭くて豊潤な造形感覚を鍛えております。特定の師匠をもたない作家も多くいる中で、私は少々時代遅れな稀な例かもしれませんが、自分に指導助言を与えてくれる存在を大切にしていきたいと考えています。

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