複数の「洛中洛外図屏風」を比べる

東京国立博物館平成館で開催中の「桃山ー天下人の100年」展は、その出展作品の内容や展示の視点から見ると、大変大がかりであり、また興味が尽きないものばかりで、日本の伝統文化の重厚感に圧倒されてしまいます。昨日のNOTE(ブログ)では主に時代背景を書きましたが、今日は私にとって最も関心の高い「洛中洛外図屏風」について述べていきます。本展には「洛中洛外図屏風」が複数展示されていて、その魅力を余すところなく発揮していると感じました。古いものは「歴博甲本」と名付けられていて、図録には「本作は近年土佐派作とする可能性も提示されており、洛中洛外図の祖型の成立を考えるうえできわめて重要な作品」とありました。室町時代の制作です。次に「上杉家本」と名付けられているのは、同じく室町時代の若き狩野永徳によるもので、図録には「京都のランドマークが金の雲間からのぞき、墨書きされた場所の名称は235か所にのぼる。僧俗貴賤の階級も問わず、2500人近くの老若男女が描き込まれている。」とありました。私はこの作品の緻密さに魅せられてしまい、暫し鑑賞に時間を使いました。次は江戸時代の作品で、図録によれば「現存する『洛中洛外図』のなかで最大のもの」とあり、大画面全体にわたる鮮やかな色彩に眼が奪われました。次は「勝興寺本」が続き、徳川家康により造営された二条城が姿を現します。「二条城を左隻の中心に大きく配することが『洛中洛外図屏風』の定型となった。」と図録にあり、これも狩野派の画家によるものと考えられています。江戸時代に岩佐又兵衛によって描かれた「舟木家本」にも私は眼が奪われ、とりわけ画中の庶民の姿を追ってしまいました。「この屏風で画家が描きたかったのは、庶民の姿、それも後に二大悪所と呼ばれる歓楽街、遊里や歌舞伎の場に集まる人びとであり、画面に散見される風紀を乱すような人びとのさまざまな姿、浮世を楽しむ姿である。」と図録にあり、まさに当時の風俗が俯瞰される視点で描かれていたことが、楽しくもあり、また驚きでもありました。空中を飛行するものがなかった時代に、こんな鳥瞰図が描かれたこと自体に感動があり、また位置関係を隠すために金の雲で覆って、あたかも金色の都市を象徴するような工芸品にまとめ上げていることが凄いなぁと思っています。本展は「茶の湯」にも重要な作品が展示されており、さらに別稿を起こそうと思います。

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