「石を聴く」読後感
2020年 10月 8日 木曜日
「石を聴く」(ヘイデン・ヘレーラ著 北代美和子訳 みすず書房)は「イサム・ノグチの芸術と生涯」を扱った評伝でした。1904年に生まれ、1988年に没し世界的な名声を得た日系彫刻家イサム・ノグチは、彫刻の概念や空間の解釈に対し、私にさまざまな啓示を与えてくれた人でした。私の陶彫による集合彫刻の試行錯誤は、ノグチの示唆によって造形の方向が与えられました。本書の最後にあった箇所を紹介しながら本書を閉じたいと思います。ノグチは晩年になっても創作意欲は衰えず、また女性に対しても精力的でした。草月会館のプロジェクトに関わった建築家川村純一の妻京子とも深い縁になったことが書かれていました。また生涯で最も巨大なプロジェクト「モエレ沼公園」については「札幌市の廃棄物処分場、モエレ沼の広大な野外空間を訪れた。それは三方を豊平川の蛇行に囲まれた広い丘で、ごみが積みあげられていた。ノグチはすぐにそこが気に入り、400エーカーの空間すべてをひとつの巨大なーその全彫刻家人生で最大のー彫刻にしたいと考えた。」とありました。ノグチ亡き後、2005年に「モエレ沼公園」は完成しました。本書の最後に「この終わりがないという立場を維持しつづけたのは、ひとつにはあまりにも好奇心に満ちていたからである。~略~ノグチにとって家がないという感覚はひとつの起動力だった。『帰属への願望が私の創造の原動力となってきた』。さすらい人ノグチは、彫刻を制作することによって自分自身を大地に、自然に、世界に埋めこむ道を探し、発見した。」とありました。訳者のあとがきにも触れますが、こんな一文がありました。「東洋の美術家として石という自然が語ることに耳を傾けながらも、そこに自分自身の鑿の痕跡を残そうとしたという意味では、あくまでも西欧の彫刻家であった。」私は次に読もうと決めているのは「イサム・ノグチ エッセイ」です。本書を読み進めるにあたって、文筆活動もやっていたノグチの随想をも読んでみたいと思ったためで、私は翻訳されたノグチの書籍は全部読む計画でいます。