汐留の「和巧絶佳」展
2020年 9月 16日 水曜日
東京新橋にあるパナソニック汐留美術館で開催されている「和巧絶佳」展に行ってきました。「和巧絶佳」とは何か、図録から引用すると「日本の伝統文化の価値を問い直す『和』の美、手わざの極致に挑む『巧』の美、素材の美の可能性を探る『絶佳』を組み合わせた言葉」だそうです。若い世代の12人の工芸家が出品している「和巧絶佳」展は見応えがあって、その精緻な技に思わず惹き込まれました。まず工芸とはどんな分野なのか、これも図録より引用します。「工芸とは、西洋的な意味での美術という領域から除外され、その周縁に位置づけられた種々雑多な造形表現が寄せ集められて形成された、いわば”寄り合い所帯”のようなジャンルということになる。~略~工業生産の規格化と量産化が進み、素材そのものの存在感が希薄な均質化された工業製品に囲まれた環境に慣れきってしまった現代の私たちにとって、手仕事の跡や素材感をそのまま表面にとどめた工芸の存在感は比類ないものといえる。~略~脱工業化社会のなかで手仕事に取り組む工芸家は、物質の表現者として人間の物質への欲望を喚起すると同時に、その代弁者として人間の物質への欲望を問いただすという背反する二つの役割を同時に担うようになったのであり、工芸には、人間の物質への欲望が両義的に映し出されているということができるだろう。」(木田拓也著)工芸は用途のある器を作るという概念が私にはありましたが、工業化時代から脱工業化時代を経て、人には手間暇をかけた手仕事への渇望があり、作品を手元に置いて美を享受したい欲求が、優れた工芸を生み出していることを理解しました。本展でも12人が12人ともその道で追求してきた成果が表れて、どれをとっても信じ難い表現と技巧が印象に残りました。私の好みで言えば、池田晃将氏の螺鈿を駆使した漆作品に度肝を抜かれました。小さいながら建築的な要素もあり、時間を忘れて見入ってしまうほどでした。もうひとつは鉄を使用した坂井直樹氏の作品で、錆と侘が幾何的な構成の中で凛とした佇まいを示していて、白壁に映えて美しいと感じました。まだまだ他の作品を取り上げればキリがなくなるのですが、「和巧絶佳」展ほど実物を見ることに価値がある展覧会はないと言えます。デジタルでは伝えられないものがそこにありました。