イサム・ノグチ 石壁サークル

「石を聴く」(ヘイデン・ヘレーラ著 北代美和子訳 みすず書房)は「イサム・ノグチの芸術と生涯」を扱った評伝で、今回は第44章「石壁サークル」と第45章「《自然のゆくてをさえぎる》」のまとめを行います。イサム・ノグチが残した代表的な石彫作品がどんな場所で作られたのか、四国を訪れた私が憧れを抱いた石壁サークルが登場してきました。「1969年以降、ノグチは四国に家とアトリエをつくり、一年の半分、通常は秋と春に三か月ずつをそこで過ごした。ノグチは石垣で囲んだ作業場、石壁サークルを建設。輪のなかにはしだいにノグチの彫刻が並びはじめた。そのひとつひとつが静かだが、それでもなお神秘的なエネルギーを放つ。ノグチは自分の最良の作品を手放そうとしなかったので、石壁サークルは仕事場だけでなく一種の野外美術館のようにもなった。~略~ノグチは牟礼の建物群をひとつの美術作品として形づくった。それはノグチがいつも探してきた天国ー目で見て手で触れるもののほとんどが自分自身の選択である場所ーだった。~略~何年もかけて、ノグチは牟礼にギリシャ寺院のたくましい簡素さと完璧なプロポーションを備える二棟の古い倉を加えた。」これは移築による建造物で、現在も室内工房と展示用のギャラリーになって残されています。次章では今もここに展示されている巨大な「エナジーヴォイド」が登場してきます。「石に鑿を打ちこむことで年齢に逆らい、個人的疎外感を回避できた。そのプロセスによって大地とのつながりを感じることができた。ノグチにとっては大地とのつながりが、おそらく人間との絆よりも重要であった。~略~『空』の彫刻は穏やかな一方で、非実存への扉のように見える。おそらく『無』の概念がノグチに明晰と平穏の可能性を提供したのだろう。門に似た彫刻はまた鳥居ー神道の神殿に導く門ーも連想させる。ノグチの門をくぐることは、より霊的な世界の戸口における浄めのフォルムかもしれない。事実、牟礼のノグチ美術館にある高さ12フィートの《エナジー・ヴォイド》は《天国の門》としても知られている。」この大作は嘗て東京都現代美術館で開催された大がかりな「イサム・ノグチ展」にやってきました。牟礼のイサム・ノグチ庭園美術館以外で、この作品を見たのは私は初めてだったと記憶しています。

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