イサム・ノグチ 巨大なプロジェクト

「石を聴く」(ヘイデン・ヘレーラ著 北代美和子訳 みすず書房)は「イサム・ノグチの芸術と生涯」を扱った評伝で、今回は第38章「ノグチと仕事をする」と第39章「浮遊する岩たち、祈りの翼」のまとめを行います。1960年代に入ると、ノグチに大きな仕事が入ってきます。「この(バイネッケ)図書館にノグチは白大理石のサンクンガーデン(半地下庭園)を提案した。植物のかわりに三体の大理石の形態ー輪、ピラミッド、頂点のひとつを支点にしてバランスをとる立方体ーを配置する。庭は世界から切り離されて知性に訴えかけるように感じられ、したがって図書館という立地にはぴったりだった。」イサムにはオーエンズという制作協力者がいて、イサムの気難しい性格にも耐えて仕事をしています。「イサムは馬のように強く、ロバのように頑固で、十歳児の活力をもつ。見つかるかぎりで最高のビジネスマンだ。ぼくが会ったなかで最良の政治屋であり、途方もなく優れた彫刻家だ」とオーエンズは称賛もしていました。次に私が大好きな作品であるチェース・マンハッタン銀行のサンクンガーデンにイサムは取り組みます。「七つの岩のいくつかは京都近くの宇治川と鴨川の川底から運ばれた。何世紀にもわたって水の流れに寝食されてできた複雑なひびのために、岩たちは中国の学者が瞑想を促すために書斎においた賢者の石のように見える。ノグチはチェースの庭園を『ぼくの龍安寺』と呼んだ。あの禅寺の庭のようにチェースの岩たちは島に見える。」さらに次のプロジェクトは、興行主であったビリー・ローズの依頼で、「エルサレムに建設中の新しい国立博物館わきに彫刻庭園をつくることについてノグチに接触してきた。」とありました。そこでノグチはこんなことを言っています。「『ほんとうにどこにも帰属せず、未来永劫途切れることなく国を追われている人としてのユダヤ人にはいつも惹かれてきた。アーティストとはそんなふうに感じるものなのだ』1965年に完成したとき、ビリー・ローズ彫刻庭園はノグチがもっとも誇りに思う成果のひとつとなった。~略~擁壁に内包される大地は『大きな翼』あるいは『大きな船の舳先のよう』になるだろうと書いている。道や通路はなく『砂利と樹木の自由なエリアだけ』。彫刻自体の配置が空間を規定する。ここでもまた、ノグチは『静謐と観照』のための場所をつくりたがった。~略~ノグチは、庭園は彫刻をおくために意図されているが、たとえその彫刻が加えられなくても意味をもち、イスラエル人だけではなくすべての人に帰属すると書いた。」

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