ヴァシリー・カンディンスキーの授業

先日見に行った東京ステーション・ギャラリーで開催中の「きたれ、バウハウス」展では、バウハウスの教壇に立っていたロシア人画家ヴァシリー・カンディンスキーに関する資料が展示されていました。昨日は同じ立場にいたパウル・クレーについて書きましたが、カンディンスキーも自身の作品の他に、彼に師事した学生作品も展示されていました。カンディンスキーは「芸術における精神的なもの」を著した抽象絵画の旗手として、20世紀の前衛美術を牽引したことでも知られています。図録からカンディンスキーの授業に関する箇所を引用いたします。「カンディンスキーは、形態では点ー線ー面の分析から、色彩ではその基本要素である寒ー暖(青ー黄)、明ー暗(白ー黒)の対比から講義を進めた。また彼独自の観点から形態と色彩を結びつける見解を示して、大きな反響を巻き起こした。『分析的デッサン』は、正確に対象を見ることと構成的に絵をまとめることを目的として行われた。教室の一角に無造作に積み上げた机や椅子、ハンガーや箒、あるいは自転車などの混沌とした物のかたまりの中から、いくつかの単純な基本的形態と、カンディンスキーがいうところの『緊張』(シュパヌングSpannung)という造形関係を見いだし、全体の構造を理解し表現する。それは全体の簡単なデッサンから始まって、いくつかの段階を経て、緊張関係の抽出へと至る。それはまるで抽象画のプロセスである。学生の習作を見ると、この授業がバウハウス初期のヴァイマール時代から始まって、彼の授業の中核として行なわれ続けていたこと、そして表現に工夫がなされてきたことがわかる。」理論家であったカンディンスキーは、自らが論考した抽象への過程を、造形の基礎教育を補完する役割として学生に対して実践していたことが明らかになっています。学生が試みた分析的デッサンは、大まかなアウトラインを描いた後、定規やコンパスを使いながらアウトラインを取捨選択し、制作過程が一目で分かるような習作になっていました。当時、バウハウスに留学していた日本人学生も、この授業を日本に紹介していて、日本の造形教育の中にも取り込まれていたようです。

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