パウル・クレーの授業

先日見に行った東京ステーション・ギャラリーで開催中の「きたれ、バウハウス」展では、バウハウスの教壇に立っていたドイツ人画家パウル・クレーの作品の他に、クレーに師事した学生たちの作品もあり、大いに興味を持ちました。図録によるとクレーが授業を担当したのは1921年に着任し、1931年に退職するまでの10年間だったようです。図録からパウル・クレーの授業についての箇所を引用いたします。「パウル・クレーは、イッテン(後にはアルバース)の予備課程を終えた学生を対象に、造形論の講義をおこない、形態と色彩について教えた。彼は、生来の几帳面な性格から、膨大な量の講義ノートを残しており、それによって授業の詳細を知ることができる。週1回の授業があり、講義の週とそれについての演習の週が交互にあった。みずから『形式的手段とのおつきあい』と呼ぶ彼の授業は、造形を『運動』と『成長』という観点から説明する独特なもので、線から面、空間そして構造から運動(螺旋や矢印)へと講義は進んだ。クレーにかかると線は意志をもって走り、あるときは逡巡し、形は生物学的に、そして数学的に解析される。数式が多用されるが、これまでに学生が習ってきた数学とはまったく異なる世界が広がる。色彩についても振り子と螺旋という2つの運動から説明した。必要があれば両手にチョークをもち、2本の線や文字を同時に書きながら説明することもあったという。毎回の講義の終わりに出される演習の課題もまたユニークだった。」図版を見ると、学生作品はいずれも製図の書き始めのようで、禁欲的な線と面が丁寧に画面に書き込まれています。旧態依然とした芸術アカデミーのデッサンから始める造形活動とは、まるで異なるアプローチで造形教育を捉えていたことが分かります。教育者としてのクレーはどうだったのか、私には推し量ることは出来ませんが、存在感のあったクレーのもとで学ぶことは、それなりの覚悟はあったのではないかと信じたくもなります。クレー自身の絵画は技巧的にも理論的にも模倣が出来ないと私は思っています。

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