イサム・ノグチ スラブ彫刻とインド女性

「石を聴く」(ヘイデン・ヘレーラ著 北代美和子訳 みすず書房)は「イサム・ノグチの芸術と生涯」を扱った評伝で、今回は第24章「岩とあいだの空間」と第25章「タラ」のまとめを行います。ノグチの残した一連の彫刻の中で、スラブ彫刻があります。それは大理石加工場が閉鎖され、建物の外壁に使った大量のスラブが安価で手に入ったことで、それらを宙吊りにして構成し、ノグチは重力のバランスをとるユニークな立体作品を作り上げたのでした。「ノグチの彫刻の多くは人体に似た形態をしているが、感情という点では攻撃的というよりは瞑想的である。ノグチは表現主義者ではなかった。静寂と不動性、いまこの場にある意味、あるいは強烈に個人的な意味よりも時を超越する意味を好んだ。」とあり、さらに代表作である「クーロス」についてこんな説明がありました。「《クーロス》は実体と空隙のあいだ、垂直と水平のあいだ、具象と抽象のあいだで完璧にバランスをとることで、力強いと同時に詩的、壮麗であると同時に華奢であることに成功している。」何か東洋的な美意識がノグチに働いているように感じるのは私だけでしょうか。次の章でノグチの私生活についての記述があり、この頃のノグチはインド人女性と恋に落ちていたようです。女性の名はタラと言い、両親がインド独立闘争に深く関与していたのでした。「ノグチが結婚を申し込んだとき、タラは拒否した。ひとつには年齢差があった。だが、ノグチのボヘミアン的なライフスタイルは魅力的であっても、あまりにも違いすぎていた。」タラはインドへ帰国を決意し、やがて二人は離れ離れになり、タラは別の男性と結婚することになりました。「アン・マッタがチリからノグチに送った手紙は希望を与えるものだった。だがアンの手紙と違って、タラの手紙からは、タラがノグチの妻となるためにアメリカにもどることはけっしてないのは明らかだった。」

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