日系彫刻家の出発点

現在、世界的な彫刻家であるイサム・ノグチに纏わる2冊の書籍を読んでいます。イサム・ノグチは氏名の由来通り日系アメリカ人です。特異な環境の中で誕生し、人種差別があった時代に育ち、やがてグローバルな世界にアーティストとしての地位を獲得する人ですが、日米を往来する中で、2つの文化を複眼で見つめる視点を有し、それが前衛としても新しい価値観を持つことになった稀有な作家とも言えます。彼の成育歴や考え方やその独創的な感覚を理解しようと、私は実際の作品を見たり、書籍に親しんできました。今読んでいる一冊は「石を聴く」(ヘイデン・ヘレーラ著 北代美和子訳 みすず書房)で、これはイサム・ノグチ本人の伝記を著したものです。もう一冊は「レオニー・ギルモア」(エドワード・マークス著 羽田美也子 田村七重 中地幸訳 彩流社)で、イサム・ノグチの母の生涯を扱った書籍です。今のところ「石を聴く」より「レオニー・ギルモア」を優先して読んでいます。それはイサム・ノグチの出発点をより深く具体的に知りたいと私が考えたからです。アーティスト本人の目覚ましい活躍よりも、独自なアートを形成するに至った最初の契機、その過程に興味関心があるためで、それには母の生涯を扱った「レオニー・ギルモア」の内容をまず押さえるべきかなぁと思いました。イサム・ノグチが母と共に幼少時に住んだ日本の風物がどんな形であれ、アーティストに与えている影響は計り知れないものがあると私は察しています。書籍の内容から幼子イサムは大変利発な感じを受けるし、母が息子をアーティストにしたいという強い思いがあることが見受けられます。アーティストは勝手に育ってくれるものではなく、誰かが意図的に、または周囲の人からの影響で育っていくものだろうと思っています。特異な環境の中で誕生した者は、その独自性を保ちながら特異なアーティストになっていくものだと書籍を捲っているうちに感じ取れるようになりました。私が注目したのは辛い環境からの好転で、自分の宿命をプラスに変える力です。イサム・ノグチほど特異でないにしても、アートとして優れたものを作り出す力は、自分の中に何かを探り出して身につけていくものではないかと思っています。

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