東京上野の「人・神・自然」展

先日、東京上野にある東京国立博物館東洋館で開催中の「人・神・自然」展に行ってきました。副題が「ザ・アール・サーニ・コレクションの名品が語る古代世界」とあってカタール国の王族のコレクションより厳選された工芸品が展示されていました。何より私が惹かれたのは人や動物がもつ表情の数々で、仮面が大好きな私としては必見の展覧会でした。コレクションが世界各地にわたっているため、その地域性と言うより、古代文化を概観できて、そこに共通するものを見出すことも出来ました。図録の冒頭の文章を拾います。「分立した小さな共同体から成る古代世界。そこで暮らす人々は、生命を育むと共に、脅威をもたらす存在でもあった広大な自然界に取り囲まれ、同時に創造主との好ましい関係をもとうと試みながら、自らの本質とアイデンティティを見極めようとしました。」これが人と神と自然の関係を考える上での最初の導入部分です。また、神に関しては地域性が現れてきます。「古代世界では、一神教と多神教の双方の信条が存在していました。最も有名な唯一神の例はユダヤの神ヤハウェであり、信者たちに『あなたには、わたしをおいてほかに神があってはならない』と述べたことがよく知られています。~略~古代エジプトや西アジアの伝統では、人間と、動物や鳥類を取り合わせた姿で神々を表すことで、その存在が信じられていた超自然の力と属性を表現しました。~略~古代ギリシャとローマの人々は、さらに一歩進んで神々を人間の姿で描写しました。~略~突然の飢餓や不安定な衛生状態、また、絶え間ない戦争と常に向き合わざるを得なかった古代においては、神の恩寵を勝ち取ることが不可欠と考えられました。」(ジャスパー・ガウント著)古代生活にあっては超自然なるものに畏怖を覚え、その原動力が美的産物を残したのであろうと察します。展示された作品群はどれも極めて美しく、現代では忘れがちな生命力に溢れたものがそこにありました。最後にアインシュタインの言葉の引用がありました。全文を書き出します。「私たちが経験できる最も美しく、深遠な感情は、不可思議なことを感じ取る感性である。それは真の科学を生む源になるものである。こうした感性を知らない人、もはや驚嘆することも、深い畏敬の念を抱くこともできない人は、死んでいるも同然である。私たちにとって不可解なことであっても、それは実際に存在するものであり、最高の叡智と眩いばかりの美となって現れるものであり、私たちの愚鈍な能力ではそれらの最も原初的な形でしか理解できないことを認識することーこの自覚、この感性こそが真の敬虔さの中心となるものである。」

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