「フォークロアの意匠」について

「呪術としてのデザインー芸術民俗学の旅」(中嶋斉著 彩流社)の第3章の4「フォークロアの意匠」についてのまとめを行います。本書も終盤に差し掛かり、洋の東西を問わず芸術民俗学としての事象が露見されるさまざまな場面を取り上げていて、論考が盛りだくさんになっています。祭祀空間として相撲から始まり、土俵から占星術に繋がるくだりは興味津々でした。さらにギリシャの時代にあった円形の闘技場も宗教に絡んだ意匠であり、こうした祭祀空間は洋の東西において存在し、また巡礼に関する象徴的な意味合いや、それに纏わる杖や水の解釈にも惹かれました。その中で私は蹲踞(つくばい)に関する箇所が目に留まりました。私の父が造園業を営んでいたおかげで、私は庭に蹲踞を据えた体験があるのです。「安土桃山時代にはキリスト教が伝来し、その影響が茶の作法に及んでいると思われる。~略~茶事はミサででもあろうから、織部灯篭をかくれキリシタンたちが拝んでいたであろうということも充分に察せられる。しかし蹲踞は滝の信仰のうつしである。その形式がととのうのは江戸中期だろうが、蹲踞が手水鉢を中心にして左右に湯桶石と手燈台を配した形になっているのは三山信仰を形象したもので、前石につくばって拝むのはこの御(霊)山である。」さらに水に関するこんな一文もありました。「水はかくて現世利益の効験あらたかな観音であり、死せるキリストを抱く聖母に重なる。大慈大悲のマリア観音を生む素地は水の信仰である。」また心の御柱についても触れた箇所がありました。「神と共に遊ぶことが芸能であって、相撲の横綱は仕切られた空間の中央に柱をたて神の座を定める儀礼の立役者であった。また茶の湯も一座建立して茶をすするが、茶を点てるというのは一椀の中に仏性を観ずることであって、それ故に茶は立つというのである。」巡礼に関する箇所で目に留まったのは「巡礼はある聖地への単一の聖地への巡礼型と、多くの霊場をめぐる円周型巡礼があるといわれ、熊野詣は一応前者に属し、西国三十三ヶ所めぐりや四国遍路は後者のものであろう。~略~むしろ長い苦行を重ね、さまざまな変身をとげながら、地霊の世界に降りついて、再び新しい生へと辿ることが巡礼である。」というところで、師匠の池田宗弘先生も辿ったスペインのサンティアゴ・デ・コンポステラに触れた部分もありました。私はキリスト教信者ではありませんが、イエスの磔刑図は身近な存在で、嘗て磔刑像を彫っている夢を見たことがありました。それを鑑みると次の文章が気になりました。「十字(架)は樹木に吊るされたキリスト像によってキリスト教そのものの象徴となってしまった感があるが、元来はきわめて土俗の信仰の表れであって、樹木のもつ永遠不滅の生命力や精神性の象徴として用いられていた。そのすっくと立つ巨木の垂直軸は天と地をつなぎ、根は深く冥界に達して生命のよみがえりを約束する。そして幹からは樹液に養われた枝が四方に延びて大地をおおい、星の世界に及んでいる。この樹木を側面から抽象すれば十字(架)となり、上(下)から俯(仰)看すれば円環または車輪のイメージを作る。」第3章の4「フォークロアの意匠」についてのまとめを行なうつもりで、多義に亘る論考に接して私の考えも二転三転してしまいました。ついにまとまらなかったにも関わらず、この章は楽しすぎて自分の考えを散らかしたまま終わらせることになってしまいました。

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