映画「イーダ」雑感

常連にしている横浜のミニシアターで、1週間の限定上映になっていたポーランド・デンマーク合作による映画「イーダ」を観て来ました。2013年に制作された本作は、モノクロでスタンダードなサイズで作られているため、クラシカルな映像美がありました。登場人物たちの極端に少ない台詞や抑制された人と人との距離感もあって、私は終始独特で不思議な雰囲気に導かれてしまいました。内容は1962年のポーランドの修道院から始まります。戦災孤児として修道院で育った少女は、修道誓願を立てる前に、院長から叔母が生存していることを聞かされ、叔母に会いに修道院を出て行くのです。叔母は酒と煙草、時に情事に耽っている自堕落な女でしたが、嘗ては人に怖れられていた検察官だったようです。叔母は少女に、本名がイーダであること、加えてユダヤ人であることを告げ、少女の両親が亡くなった経緯を探りに行くことに付き合うのでした。無垢で信仰心の厚い少女と、シニカルで無心論者の中年女。この奇妙な2人組が、叔母の運転する車で農道を走っていく映像は妙に象徴化された画面構成があり、私は美しさを感じました。イーダが無言で問いかける自分のアイデンティティ、自分とは何者か。嘗て両親が暮らした村を訪れた際に、二人は冷たい仕打ちを受けますが、調べていくうちに、村にいた住人の一人がイーダの両親と叔母の一人息子を殺して森に埋めたことが明るみに出てしまいます。戦中戦後のユダヤ人に対する残虐な行為、全体に立ち込める陰鬱な空気と閉塞感、自暴自棄になった叔母は飛び降り自殺し、イーダは一人残されます。イーダは叔母の真似をして酒を飲み、煙草をくわえてみたりして、外気を吸い込み、新たに解放と言う受難さえ怖れぬ覚悟を決めます。そこで知り合ったバンドマンとの一夜限りの情事、無表情だったイーダの表情に微妙な変化がありましたが、結局、修道院に戻っていくイーダの姿を捉えて映画は終わります。映画「イーダ」は、多くを語らずとも雄弁に表現されたものがあって、私には説明のつかない不安定な印象が残りました。

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