彫刻家の憧れの生活

「ブランクーシは完全性と洗練された簡潔性をその芸術と生き方において達成した芸術家であり、~略~彼はさまざまな形態、ヌードや飛んでいる鳥や接吻している男女などをその本質まで還元した。彼の作品の評判を聞いたロダンは助手として彼を雇おうとしたが、ブランクーシは『大樹の下には何ものも育たない』といって断ったという。青い仕事着に木靴をはき、がっしりした髭面の彼は、自己完結した世界をアトリエに作っていた。家具も自分で作っており、客はくぼんだ丸太に座らされ、食事は自作の石のかまどで自分で作った。」この文章は、私が一番気に入っている箇所で、「モディリアーニ 夢を守りつづけたボヘミアン」(ジューン・ローズ著 宮下規久朗・橋本啓子訳 西村書店)にあったものです。若い頃、私はヨーロッパ各地を金銭を切り詰めながら旅行していて、パリのポンピドーセンターの敷地内にあったブランクーシの移設したアトリエを見てきました。その彫刻素材に囲まれた空間に入るなり、気持ちがホッとした記憶が残っています。ウィーンに住むようになってから、石彫家カール・プランテルの農家を改造した自宅を訪れたことがありました。その時もプランテルの簡潔な彫刻形態がそのまま反映された住居を見て、憧れにも似た気持ちになりました。白壁に古い重厚な家具、その洗練された組み合わせに、生活を楽しむとはこういうことかと改めて考えさせられました。身近なところでは長野県に住む師匠の池田宗弘先生の「エルミタ」と称する自宅兼工房があって、蔦の絡まる煉瓦壁に真鍮で作られた彫刻や調度品が配置され、その雰囲気も特筆できるものであり、私にとって憧れる存在です。画家の住居より、立体を扱う彫刻家の方が私に刺激的な住居空間を提供してくれているような気がしています。衣食住全てにわたって、自分の世界を作ることが出来るのは何と素晴らしいことか、ブランクーシ流に言えば、その芸術と生き方において達成した芸術家に許されると言うことですが、今の私は到底達成できるものではありません。二足の草鞋生活が終了したら、少しずつ憧れの生活に近づけようかなどと夢想するこの頃です。

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