映画「天気の子」雑感

昨日のNOTE(ブログ)に続いて再び映画の感想を述べさせていただきます。岩波ホールで観た「田園の守り人たち」とはまるで異なる映画を、横浜の鴨居にあるエンターティメント系の映画館に観に行きました。どちらもレイトショーでしたが、「天気の子」はそれでもかなり観客が入っていました。新海誠監督によるアニメ映画と言えば「君の名は。」で、あの大ヒットの後でどんな作品をやろうとしたのか、注目していた人は多いのではないかと思っています。観終った印象としては「君の名は。」とは違う世界観を描いていたこと、前作とは異なる冒険を忍ばせていて、現代の風潮を切り取って描いていたこと、など上映中にも関わらず、さまざまな考えが私の頭を駆け巡りました。少年と少女の出会いがあるのは前作と同じですが、「天気の子」はお互い貧乏であり、都会の片隅で保護者不在のまま暮らしていて、生活スタイルが社会的にも不安な要素満載であることが挙げられます。これは少なくとも現在の貧困家庭の状況を描いているように感じました。少女が天気を操るという荒唐無稽な能力は、新海ワールドの最骨頂である細密な風景描写によって、その美しさ故の説得力を持ち、都会の雑踏から空に広がる積乱雲の彼方へ、私たちを連れて行ってくれるのです。この描写なくして、この世界観は生まれなかったと私は思いました。そぼ降る雨の表現には目を見張るものがあり、また雨に煙る都会の高層ビルのシルエットが美しいと感じたのは私だけではないでしょう。その都会を上空から俯瞰する画像に一条の光が射す場面は、この映画の見所のひとつです。人の心理は天気によって左右されることをよく物語っている場面ではないかと思いました。最近ではゲリラ豪雨によって甚大な被害が齎されることがニュースになっています。環境問題が国際レベルで話題になる時勢です。人が日常生活を送る上で自然環境に与える影響は、今となっては測り知れないものがありますが、私の含めて日常の快適な暮らしぶりを、だからと言って改めることをしていません。こんな時代を生きる私たちは、今後どうなってしまうのか、天候が狂っていると分かっていながら、受け入れていくしかないのかぁと感じるこの頃ですが、新海監督が図録の中でこんなことを述べています。「そこから思いついたのが、主人公である少年が『天気なんて、狂ったままでいいんだ!』と叫ぶ話だったんです。そのセリフが、企画書の最初の柱になりました。やりたかったのは、少年が自分自身で狂った世界を選び取る話。別の言い方をすれば、調和を取り戻す物語はやめようと思ったんです。」人の創作する物語は最後に調和が成され、平和を謳歌して終わるのが定番ですが、現実はそんなことはなく、大きな課題を抱えたまま時代が移り変わっていくものです。現代を生きるストレス社会の中では、物語の中だけでもハッピーエンドにして現実逃避をしたい観客も多いのはないかと察しますが、観終った後、すっきりした感覚がないなぁと思っていたら、近くの観客が「誰も幸せにならないんだよね」と呟いていたのが印象的でした。

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