雲蝶作「道元禅師猛虎調伏」について

新潟県魚沼市には名匠石川雲蝶の残した数多くの木彫や絵画があって、僅か2日間の旅行とは言え、私は大変な刺激をもらいました。石川雲蝶は、自分とは異なる表現方法をもつ彫刻家ですが、その常軌を逸した作品群は、私に弛まぬ創作意欲と震える魂の在処を齎せてくれました。その中でも西福寺開山堂の天井を彩る「道元禅師猛虎調伏」は圧巻でした。西福寺開山堂の解説にはこんな一文がありました。「本堂の左手に連立された開山堂は、江戸時代末期1857年(安政四年)に二十三世・蟠谷大龍大和尚によって建立された。開山堂の向拝ならびに堂内には、幕末の名匠と謳われる石川雲蝶作の彫刻・絵画・漆喰鏝絵の数々が施されていて、その作品群が日光東照宮にも劣らない素晴らしいものであることから、いつからか『越後日光開山堂』と呼ばれるようになった。」開山堂の内装全体に広がる浮き彫りは、その一つひとつの具象表現に鬼気迫る力があります。ついそこに見入ってしまい、複数の物語がそこに彫りこまれているのに気づきます。それぞれの場面をじっくり見ていくと、欄間には遠近法を取り入れた彫刻があったり、また若い女性が幽霊となって登場している場面もあって、その表現の多様性に驚かされます。天井全体のテーマは「道元禅師猛虎調伏」で道元禅師の行為が描かれていました。解説書からその箇所を拾います。「この物語は『道元禅師が天童山への行脚の途中、山中で虎に襲われるまさにその時、手にした拄杖を投げつけ座禅に入られた。すると拄杖がみるみると龍に姿を変え、禅師の御身を守った。』という場面である。」そのドラマチックな場面を、ハリウッドのスペクタクル映画でも観ているように錯覚し、迫ってくる圧倒的なパワーを感受しつつ、仏の教えに導かれてしまうのでした。他の多くの仏教美術に見られるような静かに冥想する雰囲気はなく、アクティヴな捉えとしての宗教感がそこにあったように思いました。全ての量感が絶え間なく動いて、祈る者や鑑賞する者の周りをぐるぐる回っているように感じられました。鑿の彫り跡をよく見ていくと、迷いのない立体表現にため息が出ました。また、透かし彫りの上に岩絵の具で彩色されていて、その生々しさも手伝って、一層劇画風に見えたのかもしれませんが、旺盛な創作意欲が私にも何らか力を与えてくれるようにも思えました。私も陶彫制作を頑張るぞと改めて決意し、西福寺開山堂を出ました。こんな芸術的な意欲を高める作品との遭遇があったことを幸運に思います。「越後のミケランジェロ」は本家イタリアのミケランジェロより、私にとってさらに身近な存在でした。彫工石川雲蝶は、酒や博打に明け暮れた破天荒な生き方もしましたが、豪快な仕事も残してくれたのが幸いでした。

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