映画「心と体と」雑感
2019年 6月 28日 金曜日
最近観た映画を振り返ってみると、常連のミニシアターではハンガリー映画をよく観ているなぁと思っています。映画に登場する人物の情感の描き方にハンガリー独特なものを感じるのは私だけでしょうか。昨晩観に行ったハンガリー映画「心と体と」もその感覚の独特さ故に評価が分かれるところですが、私には妙に印象強く残った映画だったと思い返しています。筋立ては単純で、言うなれば冴えない中年男性と若く美しい女性のラブストーリーです。ストーリーよりディテールにこの映画の魅力があって、舞台が食肉処理場だったり、恋愛に発展する2人の性格が際立つ特徴を持っていたり、肌理の細かい心理描写に私は惹きつけられたのではないかと思っています。食肉処理場は飼育されている牛が次々に処理される場面がある反面、人の食事場面も多く、命を頂いて生活を営む人々の日常がさりげなく描かれていました。そこにやってきた若い女性職員は周囲と馴染めず、上司で片手が不自由な中年男性が彼女に気をかけていきます。そんな中で食肉処理場で事件があり、警察の捜査の中で職員全員がカウンセリングを受けることになりました。そこで若い女性と中年男性が別々の生活の中で、毎晩同じ夢を見ていることを知るのでした。それは森を彷徨う雄雌の鹿の夢でした。生きることに不器用な2人に突如起こった摩訶不思議な出来事。それを契機に急速に接近する2人。色恋沙汰を卒業し独身を楽しんでいた男性と、並外れた記憶力と潔癖性という特性を持つ女性。穢れなき透明感を持つ女性が初めて経験する他人との触れ合い。人と人との情感が交差する場面に、この映画の醍醐味があったような気がしています。人によって処理される牛と、森を駆ける自由な鹿。職場の他愛無い職員の会話と、そこから孤立し情感に乏しい女性。環境が用意されていなければ絶対にあり得ないラブストーリーなど、何気ない比較対象が内容に深みを齎す効果を生んでいるようにも思えました。