クリムト「ユディトⅠ」について

東京都美術館で開催されている「クリムト展」。先日からこの展覧会に纏わることをNOTE(ブログ)に書いていますが、作品に触れることが少ないなぁと思っています。今日は来日した代表作「ユディトⅠ」について書いていきます。ユディトとは誰か、旧約聖書外典の一場面に登場する若き未亡人がユディトです。彼女はアッシリア軍の包囲を解くため、軍の陣地に向かい、夜陰に乗じて司令官ホロフェルネスを誘惑して酔いつぶし、眠っている彼の首を剣で切り落としました。ユディトは目的のためにはどんな手段を厭わない女性の強さの象徴になっていますが、「ユディトⅠ」は胸元を露わにした官能的な女性として描かれていて、その表情は恍惚としています。現代ではこうしたエロチシズムは普通に罷り通っていますが、当時はどうだったのでしょうか。画面構成は金を多用した装飾性の強いもので、ウィーン分離派の代表的な作品となり、旧態依然としたウィーン画壇に対するクリムトの挑戦ともなったと言われています。図録から引用します。「絵画における金は、中世のキリスト教の宗教画において多用されたが、ルネサンス期以降は遠近法を用いて三次元空間を表現することが主流となり、長きにわたり忘れ去られていた。クリムトはこれを逆手にとり、当時は否定的に捉えられていた手法を新たな表現として打ち出したのであった。~略~エジプト美術やビザンティン美術からの影響、あるいは日本美術からの影響があった。~略~ラヴェンナの聖堂における金のモザイクの輝きが彼に決定的な影響を与え、その繊細な芸術に華麗さとゆるぎない荘厳さが加わったとしている。~略~油彩画になじみのない素材の扱いは容易でなかったようで、金箔を定着するのに時間がかかり、展覧会の出品が遅れたとも考えられている。裸体に近い姿に金をまとい、エキゾティックな文様を背に立ちあらわれるユディトは、匂い立つような官能性を放ち、見る者を圧倒する。」(小林明子著)「ユディトⅠ」は今回来日した作品の中でも、最もクリムトらしい黄金様式を示す代表作であることに違いありません。

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