荘司福「刻」について

92歳の長寿を全うした日本画家荘司福。その絵画世界の変遷を、今回の展覧会「荘司福・荘司喜和子展」(平塚市美術館)でじっくり見ることが出来ました。私は若い頃に描いた人物画や仏教に取材した絵画よりも、最晩年に描いた一連の風景画が大好きです。とりわけ1980年代終わりから90年代にかけて制作された風景画は、簡潔な構図でありながら、深い精神性を湛えていて、見る者に何かを感じさせる空白が残されています。それ故、暫し絵画の前で佇んでしまうのです。空白は有在の無であり、余裕の産物であると私は解釈しています。生涯を終えるまでに、こんな世界感が獲得出来たらいいなぁという羨望もあって、私が惹きつけられる要因だろうと思っています。その風景画群の中でひとつを選ぶとすれば、1985年制作の大作「刻」です。図録の解説には「一乗谷の朝倉氏居館跡に取材。朝倉氏は戦国時代に一乗谷を中心に越前を支配した戦国大名だが、16世紀後半に織田信長に滅ぼされた。」とありました。この作品に対する作者のコメントもありましたので、掲載しておきます。「幾百年もの年月をそのところに存在して、刻の流れの中の興亡も戦乱も又多くの人々の生きざまもいろいろなものの中に在った石の群、今は白日のもと深閑としてそこに在る。石以外は何もない白い空間の中に、多くのものが重なりあって充満している虚の空間、石を見てそんな空間を描いてみました。」(「三彩」457号より)虚の空間とは何もないのではなく、描かれた対象よりも雄弁に語る空間ではないかと私は思っています。描かれている苔むした石を見て、そこに過ぎた時間の蓄積を感じ取り、幾多の人々の往来を感じ取るのは、石が置かれた場所の空気を鑑賞者が感じ取れるからだと私は考えます。時間の沈殿の中に諸行無常を思い起こさせる世界が私は好きです。

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