箱の内部に展開する世界

箱の内部に展開する世界と言えば、アメリカの造形作家J・コーネルですが、私にもそうした世界で遊びたい欲求があります。箱に把手をつけて鞄として持ち歩けば、これは20世紀を代表する芸術家M・デュシャンの作品「トランクの中の箱」があり、自分の作品のミニチュアを作り、箱詰めした有名な作品になります。箱という小宇宙は何とも魅力的な空間を秘めていて、将来は箱の内部に展開する世界を作りたいと私も考えています。箱は広がる空間に限定を与えることで、内に向って凝縮する要素が強くなり、自らの造形主訴がより鮮明に深層化できるのではないかと考えます。外枠の箱は何の変哲もないものにして、鑑賞者の眼を内側の世界に誘導するのです。私が考える箱の内部に展開する世界は、前述したM・デュシャンの作品「トランクの中の箱」とは異なり、作品のミニチュアではありません。れっきとした作品として示すものです。箱はひとつだけではなく、連作としてイメージしています。さらに開いたり閉じたりできる蝶番を付けたいと思っています。秘めたるものという雰囲気を纏わせるために、たとえばキリスト教のイコンのように扉を開けて、そこに描かれた画像に神秘性を与えるような演出をしたいのです。箱の内部に展開する世界はその大きさにもよりますが、蔵書や版画のように個人が楽しむ要素もあります。パブリックではなく、プライベートな作品。しかも自分だけが深層に辿り着き、そこで詩的世界を味わい、自らを解放できる世界。鑑賞者に広い視野を提供するのは、何も大きな空間の中に置かれた作品ではなく、小宇宙の中にも大きな世界観が存在すると私は考えます。掌に収めて眺める作品でも、その主張する世界は、大きなイメージを髣髴とさせるものがあるはずです。私はそういう作品が作れたらいいなぁと考えていて、現在それが作れているわけではありません。自分の理想を語っただけに過ぎませんが、まずイメージ優先で、作品が生まれていくのです。箱の内部に展開する世界を、近い将来作っていきたいと思っています。

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