映画「メアリーの総て」雑感

先日、常連である横浜のミニシアターに19世紀の英国を舞台にした映画「メアリーの総て」を観に行きました。主人公メアリー・シェリーは「フランケンシュタイン」の作者です。18歳でこの物語を執筆した彼女の動機や背景が描かれていて、楽しめる内容になっていました。メアリーは名高い思想家だった母を亡くし、父と継母、義妹と暮らしていましたが、父の友人宅で異端の詩人と噂されるパーシー・シェリーと出会います。パーシーには妻子がありましたが、メアリーとパーシーは互いに惹かれ合い、駆け落ちをしてしまうのでした。メアリーはそのうち娘を授かりますが、借金の取立てから逃げる途中で娘が命を落とす憂き目に会います。失意のメアリーはパーシーや義妹と共に悪名高い詩人バイロン卿の居城で暮らし始めますが、退屈任せにバイロン卿から「皆でひとつずつ怪奇談を書いて披露しよう」と提案され、それが契機になって「フランケンシュタイン」を創作することになるのでした。当時の見世物に「死者を蘇らせる生体電気ショー」があって、メアリーは科学に興味があったことや、パーシーの主張する自由恋愛に翻弄される内縁の妻だったことや、本妻が自殺をしたこと等、さまざまなことがメアリーを巻き込んでいきました。そんな要因が相俟って、メアリーは孤独な悲しみを背負った人造人間を主人公にした小説に昇華させていったように私には思えました。図録にはこんな一文がありました。「才能ある亡き母への憧れと、自分が産まれたために母が死んだという罪悪感。我が子を死なせてしまった喪失感と、命を蘇らせたいという切望。妻子ある男性を奪い、その妻を自殺に追いやったという呵責の念。」(廣野由美子著)これが「フランケンシュタイン」創造の秘密かなぁと思いました。私がもうひとつ感じたことは、若い女性が創り出した文学作品に対する当時の出版社の冷たさと世間の慣習でした。時代が時代だけに最初は匿名で出版されたようですが、その後200年以上も愛され続けているドラマを、その頃誰が想像したでしょうか。「フランケンシュタイン」のイメージの定着は、1931年のユニバーサル映画「フランケンシュタイン」で、俳優ポリス・カーロフ演じる有名な怪物の姿です。その後「フランケンシュタイン」はさまざまに翻案されて、今もSFの元祖ともなっています。私も昔テレビで白黒映画による「フランケンシュタイン」を観ています。その原作者が18歳の女性だったというのが、この映画を観た最初の驚きでした。映画では西欧の街が美しく表現されていて、怪奇趣味を感じることなく、まるで文芸作品の趣だったことを付け加えておきます。

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