映画「運命は踊る」雑感
2018年 10月 5日 金曜日
常連になっている横浜のミニシアターのレイトショー。これは勤務時間終了から上映が始まるので、自分にとっては好都合な鑑賞体験になっています。ウィークディの夜に出かける映画館はストレス解消にもなって、仕事でさまざまなことがあっても、気持ちをリセットできるのです。「運命は踊る」はイスラエルの兵役に就いた息子を持つ両親の事情を描いています。イスラエルの映画は私にとって初めてかもしれず、S・マオズ監督はイスラエル軍戦車部隊に砲手として従事したことがあって、そうした体験やら娘さんが乗るはずだった通学バスがテロに遭ったりした体験などが映画の中に織り込まれているようです。映画の内容はギリシャ悲劇の三部構成を下敷きにしていて、第1部は兵役に従事している息子の死亡が役人から知らされる両親の憤り、そのすぐ後でそれが誤報だったと伝えられると、父ミハエルは怒りを爆発させ、強引に息子を連れ戻すように役人に迫るのでした。第2部は辺鄙な国境の検問所に勤務している長男ヨナタンやその仲間たちとののんびりした時間が描かれていました。問題なく検問を通過する何台かの車の中で、事件は突如やってきて、ちょっとしたミスでヨナタンは誤射してしまい、上官はそれをなかったことにすると判断する場面がありました。そこに連絡が入り、ヨナタンに帰宅命令が出てトラックに乗せられました。第3部はヨナタンの母ダフナと別居しているミハエルが自宅に戻り、あれこれ過去を振り返る場面がありました。「子どもが生まれる喜びは、やがて薄れてしまうけれど、失った悲しみは、永久に消えないわ。」というダフナの言葉に、死亡が誤認されたヨナタンは、この時すでに亡くなっていたのかと私は訝しく思いましたが、それが物語の最後に判明しました。ヨナタンを乗せたトラックが事故に遭ったのでした。ヨナタンを強引に呼び寄せたミハエル、それが結果的にヨナタンの死亡に至ったわけで、原題の「FOXTROT」は元の場所に戻るダンス・ステップのことを言い、辻褄が合う物語仕立てになっていました。観終わった後、私は気持ちの整理がつかない不安定さを感じました。イスラエルが抱える課題を浮き彫りにした本作は、「イスラエルにとって有害な映画。政府機関であるイスラエル映画基金から製作資金を与えるべきではなかった。」とスポーツ・文化大臣から攻撃されたにも関わらず、多くの賞に輝いたことは納得できると思いました。一緒に観に行った家内は、映画の冒頭で両親の家の玄関先に掛けられた直線が幾重にも交差する抽象絵画が家族の状況を示しているのではないかと指摘をしていました。現代アートが室内に何気なくあるのが、私にとっても楽しめる映画の背景になっていて、さらに家内が言う通り、そうした小道具にも何か意味が込められていたのかなぁと思いました。