映画「祈り」雑感
2018年 8月 28日 火曜日
先日、東京神保町にある岩波ホールで、ジョージア(グルジア)映画「祈り 三部作」を観てきました。そのひとつである「祈り」について詳しい感想を述べます。1967年にテンギズ・アブラゼ監督によって制作された本作は、荘厳な宗教性と芸術性に裏打ちされた独特な風格をもっていると私は感じました。粗い岩肌や石造りの堅牢な村が、モノクローム映像で登場しますが、無駄を排除したような象徴性が際立っていました。コーカサス山脈の奥深くに点在する村は、そこは全体主義を図ったソビエト政府の手が及ばない要塞村だったようです。儀式や歌や工芸品は今も保存されているそうで、映画の舞台になった村に一度行ってみたい思いに駆られました。物語の前半はキリスト教徒とイスラム教徒の男同士の一騎打ちを描いていて、倒した相手に敬意を払ったことが仇になって、勝利したキリスト教徒の家族は村を追われてしまうのでした。後半はキリスト教徒をもてなすイスラム教徒が、やはり村の掟に触れ、客人を処刑されてしまう顛末を描いていました。宗教観や民族の違いを超えた心の通い合い、またお互いを認め合うことがテーマでしたが、主人公の属する社会集団がそれを許さないという因習があって、悲劇的な結末を迎えてしまいます。私たちの日本でも昔は部落社会があって、そこでしか通用しない因襲や悪弊がありました。民主化や人権意識、さらに世界のグローバル化が進んだのは、つい最近のことです。閉鎖社会は決して過去のことではないと私は痛感しています。宗教観の違いはあっても、お互いを理解できる環境が整ってきた現代だからこそ、映画「祈り」が主張している根源的な問いかけを忘れてはいけないと思った次第です。
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