映画「ビューティフル・ディ」雑感
2018年 7月 24日 火曜日
自分の個展準備に追われていたことで鑑賞に飢えていた私は、個展を終えた後、何か強烈な表現が味わいたくなって、常連にしている横浜のミニシアターに向かいました。イギリス映画「ビューティフル・ディ」は、そんな自分の気分に充分応えてくれる内容でした。主人公ジョーは行方不明者の捜索を請け負うプロで、人身売買された少女たちを救ってきました。その報酬で年老いた母親と質素に暮らしていましたが、時折フラッシュ映像でジョーの記憶が甦ります。父親からの虐待や、海兵隊員として派遣された戦場、壮絶な犯罪現場などがトラウマとなり、彼は常に死に取り憑かれているのでした。州上院議員の十代の娘の救出依頼を受けたジョーは、鮮やかに建物内部に潜入し、少女ニーナを救い出しますが、彼女はあらゆる感情が欠落していたのでした。また娘を返すため父親の議員に会う筈が、彼は投身自殺をしてしまったことを報道で知りました。その後、すぐに彼は警官に襲われて、ニーナは連れ去られます。依頼人も殺されていました。何の罪のないジョーの母親さえ殺されていて、彼は大きな犯罪に巻き込まれているのを知るのでした。ニーナは父親が出世のために州知事に貢がせたことが事実として分かってきました。ニーナをもう一度救い出すために、ジョーは州知事の屋敷に潜入しましたが、そこに至るまでに、ジョーが母親の遺体を湖に沈める場面があり、自らも入水自殺するつもりでいたのでした。しかし湖底へ沈む最中に、ニーナの幻影を見たジョーは死の淵から引き返してきました。身寄りのなくなったジョーとニーナ。この世の地獄から生還したような明るい場面でさえ、ジョーは自殺願望に翻弄されながら佇むカフェで、ニーナが言い放ちます。「今日はビューティフル・ディ」。これが映画のストーリーですが、原題は「You Were Never Really Here」(お前はまったく存在していなかった)。本作はあらゆる場面で強烈な印象を残す映画で、カンヌ映画祭で主演男優賞と脚本賞に輝いたのも頷けるなぁと思いました。