草月プラザの「天国」

「イサム・ノグチ 庭の芸術への旅」(新見隆著 武蔵野美術大学出版局)の中に、草月プラザに設置された場の彫刻とも言うべき「天国」の解説がありました。「青山、草月会館のロビーのデザインである『天国』は、出発点が、逆にあからさまな意味で花を生けるための舞台装置でありながら、終着点として、時間の庭を実現し得た、ノグチの傑作として数えられるものだ。~略~逆に造形的な機能という意味で言えば、いくつかの花を生ける可能性をじゅうぶんに残した、建物の二辺に寄せた、石による、階段状のテラスがあるだけなのだ。そして、巧みにつながったり、離れたり、隠れたりしながら流れ去る水があるだけだ。晩年の石彫と同じような、割りだした、掘りだした、石の肌そのままと、機械ですぱっと切って磨いた断面、そしていくぶんかは、斧で人間が斫った鑿跡、その三つの肌合いの絶妙な調合、コラージュがあるだけだ。」敢えて空間の状況だけを伝える文章を掲載しましたが、いろいろな意味で「天国」は特筆に値する作品であるのは間違いありません。私は学生時代に完成したばかりの「天国」を見て衝撃を受けました。その頃、私は学校で人体塑造をやっていて、自分の彫刻をどういう方向にもっていくべきか悩んでいました。「天国」は、自分が海外に旅立つ前の鬱積した気分を晴らしてくれた唯一の空間だったかもしれないと、今になって思っています。1985年に私はヨーロッパを引き揚げてきて、都市遺構をパノマラとして表現する考えに至っていました。そこで再度「天国」を見に出かけました。場の彫刻としての捉えこそ、自分が目指す彫刻の在り方だと確認できた瞬間でした。亡父が生業としていた造園業とも合致したのも、こうしたイサム・ノグチの仕事が引き金になっていることを実感しています。

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