東京駒場の「柚木沙弥郎の染色」展

90歳を超えても現役で活躍する染色家柚木沙弥郎。先日、NHK番組の日曜美術館で紹介されていて、その制作風景を見た私は創作意欲が刺激されました。自由闊達で好奇心の塊のような作家は、床に敷いた大きな平面に抽象形態を描き、型紙を作っていました。映像には日本民藝館での個展の状況も流れていて、その雰囲気がとても良かったので、実際に行ってみようと家内と話していたのでした。民芸運動を牽引した柳宗悦の思想と、染色家であった芹沢銈介に弟子入りして技法を習得した柚木沙弥郎は、生命感のある模様と鮮明な色彩に溢れた作品を多く手がけていて、実物に出会えるのを楽しみにしていました。期待通りの生き生きしたデザインの布が壁に掛けられていたり、机上のガラスケースに収まっていて、生活の中で潤いを齎す造形が美しいと感じました。「模様は直観で捕らえられた本質的なもの」と言う柳宗悦の言葉通りの創作活動を展開した柚木沙弥郎は、無駄を取り去った模様のデザインと、遊びの要素が入り込んだデザインの要素が共存しているように思えました。日本民藝館に行った日が休日だったため、同館は鑑賞者で混雑していました。今まで何回も訪れた日本民藝館でしたが、こんなに混んでいることはなかったように思いました。柚木沙弥郎の世界が誰にも分かり易く、美しかったために多くの人を惹きつけているのだろうと思いました。とりわけ私は同館収蔵品の民族的な仮面と、柚木沙弥郎の布を併設展示した空間が好きでした。まさにプリミティヴの饗宴、ともに放射する光に私は時がたつのを暫し忘れました。

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