映画「DARK STAR H・R・ギーガーの世界」雑感

常連にしている横浜のミニシアターへ家内と「DARK STAR H・R・ギーガーの世界」を観に行ってきました。ギーガーは米SF映画「エイリアン」の造形で、1980年アカデミー賞視覚効果賞を受賞し、国際的な知名度を獲得した芸術家です。映画の冒頭で、6歳の時に薬剤師の父から贈られた頭蓋骨を棚から取り出す場面がありました。彼は自らの恐怖心をコントロールするため、悪夢等の視覚具現化を図り、グロテスクでエロティックな表現を生み出したようです。そのうちその闇の世界に安らぎや癒しを感じ始めました。ギーガーは若い頃からエアブラシを駆使して、巨大な絵画を精力的に制作しました。制作のテーマは、誕生から生殖、死に至る生命としての根源を、人体と機械が融合したバイオメカノイドで表すことでした。当時愛していた女性リーは、敬遠なカトリック信者だったため、ギーガーの悪魔も厭わないモラルについていけず、鬱病にかかり、自殺に追い込まれることになりました。自暴自棄になるほど悩んだギーガーを助けたのはリーの兄である医者だったようです。画面に繰り返し登場する女性の風貌がどれもリーに似ていると私は感じました。ギーガーにも振り返りたくない過去があったことをこの時知りました。ギーガーの芸術家としての駆け出しは、画廊に持ち込んだポスターだったため、サブカルチャーとしての要素が強く、アートシーンに登場するのは商業的な成功があってからだったようです。昔から交流のある画廊主やギーガーの秘書になっているミュージシャン、元妻だった女性が映画に登場するのは、ギーガーのやってきた表現が自分一人では運営できない規模になったことを物語っています。スイスのサン=ジェルマン城にH・R・ギーガー・ミュージアムをオープンしたり、バーの室内装飾を手掛ける等、その活躍は留まるところを知りません。この映画が作られた後、まもなくしてギーガーは74歳で世を去ります。彼の住居兼画室の庭に設けられたミニ列車で遊ぶ無邪気なギーガーは、人生で望んだことを全て満たした幸運な芸術家だったことを証明しています。私を含め、売れない芸術家にとっては羨ましい限りです。

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