メタフィジックスについて

私がやっている彫刻は物質的な創作活動ではありますが、それら素材を用いて作る出すのは精神世界に所属するものです。そうした己の内面を問いかけることが、周囲を見渡すと日常生活の中では少なくなってきているように思います。私はたまたま創作活動をしているので、メタフィジックスは必要不可欠な要素ですが、多くの人たちにとっては、敢えて自分の内面に向き合わなくても物質的・経済的な生活に困ることはありません。表向きは精神生活なんてどうでもいいことで、日常何かによって満たされていれば、前向きで建設的な自分を保てると思っています。ですからここではメタフィジックスの重要度を問うことはしません。自分の中で重要と考えているとしか言いようがないメタフィジックスの何たるかを整理したいと思っているのです。哲学史を紐解けば、古代の哲学者ソクラテスの「汝自身を知れ」という言葉から端を発し、アリストテレスが提唱した形而上学(メタフィジックス)によって、その考え方が定着しました。私たちは唯物論では片づけられない何かに縋って生きている場合も多く見かけます。宗教もその一つですし、私が生涯を賭けている芸術もまた然りです。実体のあるものを対象とする科学が罷り通る世の中で、一部の学者や宗教家、芸術家にしか注目されなかったメタフィジックスが、癒しを求める現代の人々の中で、新たなビジネスとして復活している兆しがあります。スピリチュアルという言葉に興味を寄せる人々がいることも事実です。自分が生きていく意味や意義を求めたいなら、物質だけでは満たされないものがあり、そのために自分探しを始める人がいます。私は彫刻表現を通して自分探しをしてきました。今後、メタフィジックスがさらに注視される世の中になるのではないかと思っています。

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