「絶叫のタブロー」ヴォルス

現在読んでいる「絵の証言」(佃堅輔著 西田書店)に取り上げられている23人の芸術家のうち3人目になるアルフレート・オットー・ヴォルフガング・シュルツェについて感想を述べます。通称ヴォルスです。ヴォルスは昨年、千葉県にあるDIC川村記念美術館で大規模な展覧会が開催されて、まとまった作品群を見る機会がありました。細いペンで描かれた即興的な素描は、繁茂する有機物であったり、染みや斑点(タシスム)による不安や絶望の表現があったりして、命を削っていくような創作行為が感じられ、私は戦慄を覚えました。まさにヴォルスは「絶叫のタブロー」を実現した画家ではなかったかと思っています。本書の中で実存主義哲学を提唱したサルトルがヴォルスを支持したことが語られています。まず、ヴォルスの表現の特徴を述べた箇所を引用いたします。「後期の作品は、自己経験が神経質な痕跡として色斑や色線が大きく波打っているが、タシスムの絵画方法に対して模範的である。絵は、もはや従来の意味で成り立たず、彩色、それに線と色の筆法、痙攣する湾曲、物質に裂け目を入れられた傷において、今や内容と発言が同時に存在する。」次にサルトルとヴォルスの関わりの箇所を引用いたします。「サルトルによれば、『人間は自由だ』。自由なくして、人間の主体はない。そして自由は行動を離れたものではなく、人間とは彼自身がつくるところ以外のものではない。しかもニーチェ以来、神なき時代には、人間は神の恩寵に祈願することも、神の摂理に責を帰することもできない。ただ自己行動によってのみ、自己の自由を実現すべく、見捨てられ、遺棄されている。人間自身が、自己行動の全責任を負うのである。とするならば、人間が誠実であろうとする限り、不安、苦悶、遺棄、絶望の状態に陥らざるをえまい。サルトルが、ヴォルスの行動と芸術に共鳴したのも理解できよう。」

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