映画「笑う故郷」雑感
2017年 12月 4日 月曜日
昨日、横浜のミニシアターにヴェネチア国際映画祭主演男優賞に輝いた映画「笑う故郷」を観に行きました。横浜に来る前に岩波ホールで上映していて、観に行こうかどうか迷った映画でしたが、横浜で観ることが出来て良かったと思いました。「笑う故郷」はノーベル文学賞を受賞した作家の40年ぶりの帰郷を巡って、地元の人々が起こす騒動を描いたもので、国際的文化人と地元に暮らす庶民との感覚的なズレが、徐々に辛辣な状況を作り出すストーリーでした。過去の因縁や憎悪から嫉妬や誤解が生まれていく過程は、リアルさをもって私たち観客に迫ってきました。ヨーロッパ在住の作家はアルゼンチンの小さな町が故郷で、そこで過ごした20歳までの経験を題材に、彼は数々の小説を発表してきました。それが地元にしてみれば故郷の人々を嘲笑する小説と受け取る人もいたようで、名誉市民として帰郷した彼を取り巻く環境は、複雑なものを孕んでいました。作家の元恋人だった女性と結婚した彼の幼馴じみ、作家の審査によって落選された絵画協会幹部の執拗な攻撃、息子の車椅子を有名人に強請る親、小説の登場人物と自分の親との関係を確かめる人など、登場する人々が素朴さと感情の濃さを伴って、面倒な関わりを含めた複雑な人間関係の中にいました。それに耐える作家は次第にイライラが増していったのでした。映画の後半では、作家が故郷を懐かしむ感情はどこかへ吹き飛んでいました。とてもじゃないけど、笑えない故郷とも言うべき「笑う故郷」は、大変インパクトのある内容で、やるせない気分になりました。主演男優賞を受賞した作家役のオスカル・マルティネスは、気難しい作家が翻弄されていく状況を自然に演じ、存在感を示していました。映画に同伴した家内が、これは有名作家の驕りと感想を言っていましたが、それはマルティネスの演技あればこその説得力ではなかったかと思いました。確かに面白い映画であるけれども、感情の機微が揺れ動く人間臭さを表現している秀作なのだろうと思いました。