虎ノ門の「八木一夫と清水九兵衛」展

先日、東京虎ノ門にある菊池寛実 智美術館で開催している「八木一夫と清水九兵衛 陶芸と彫刻のあいだで」展に行ってきました。菊池寛実 智美術館は陶芸を専門にしているにも関わらず、私には馴染みのある美術館ではありませんでした。過去に1回くらいしか訪れたことがなく、昔の記憶を頼りに出かけてきました。大変贅沢な空間を持つ美術館という印象がありましたが、陶の世界では革新的とも言える巨匠2人の作品が点在する空間は、私自身が癒されるほど贅沢な空間と時間がありました。陶芸は生活上の用途があるため雑貨として発展してきましたが、縄文土器や桃山時代の茶器などを見ると、日本人は遊び心に溢れた造形物を作っていて、陶彫が登場する土壌は十分にあったと考えられます。そうした陶芸と彫刻とのあいだを行き来し、前衛の感覚を持ち込んだ2人の作家は、私には稀有な存在と映ります。図録にも気になる箇所がありました。「八木のオブジェ焼きは、器物からの展開であり、その基本な発想は、轆轤で成形して内側の空洞を作り上げながら形づくることである。八木自身、『新しいものと古典との結婚、これが私のねらいです、ピカソやクレーなどの近代絵画としぶい日本のロクロの味を作品の上で、どう調和させるかが私の仕事』と走泥社の結成からまもない頃に語っている。~略~一方、清水のデザイン的な思考は、戦前の10代の頃に学んだ建築やその後の鋳金で培われたものであり、それは設計図や原型を経て、計画したフォルムを実現させる行程をたどる。~略~次第に土を扱いづらいと感じるようになり、若い頃からの彫刻への思いも断ち難く、期待の陶芸家として活躍を続ける傍ら、彫刻への道を歩みだしてゆくのである。」(花里麻理著)もう40年以上も前に大学受験を控えた私が美術雑誌で見たのは、巨大なステンレスの翼が芝生の坂に置かれ、その爽やかな空間に快さを感じた清水九兵衛の彫刻でした。

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