金曜夜は仏像を楽しむ

東京の国立博物館や美術館は、金曜日に開館時間が延長されているので、仕事をしている者にとっては嬉しいシステムです。とくに大きな展覧会が企画されている秋の季節は、散策がてら東京に足を延ばすのも楽しいひと時で、私は一日のうちで芸術鑑賞があると、心が満たされて充実した時間が過ごせるのです。今日は勤務終了後に家内と待ち合わせ、東京上野の国立博物館平成館に行ってきました。生憎の雨天で散策には残念な夜でしたが、「運慶展」を見たい一心で雨の上野公園を歩きました。鎌倉時代の仏師の代表とも言える運慶の仏像が一堂に会する機会は滅多にありません。この企画を知った時から「運慶展」には絶対に行こうと決めていたのでした。学生時代、西洋彫刻に憧れていた私は、仏像には目もくれず、日本の古美術は退屈なものだと決めつけていました。近隣の寺院に鎮座する仏像は、線香臭い中で住職による説法の背後にある儀式の飾りくらいに思っていました。そんな不届きな私に開眼を促してくれたのが鎌倉時代の写実的な仏像たちでした。とりわけ運慶派の彫刻は西洋的な解釈が当てはまるくらい骨格や筋肉の在り方が見事で、その立ち姿に緊張感がありました。当時、日本には西洋のような解剖学はなかったはずですが、仏師の観察眼の鋭さは、私に驚きと感動を齎してくれました。その運慶の仏像を足掛かりに、私は白鳳や天平の仏像を理解し、自分が惚れ込んだ秋篠寺の「伎芸天」に辿り着いたのでした。世の中には美しい仏像があるものだと私は改心し、宗教としてではなく芸術作品として仏像を見るようになりました。その契機を与えてくれた運慶の仏像たち。まとまった作品群を見るのは初めてでしたが、圧巻という他は言いようがありませんでした。詳しい感想は後日に回します。今晩は仏像の迫力に押し潰される夢を見そうです。

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