「スーラとシェレ」読後感

8月はまったく読書をしなかったため、今日取り上げる「スーラとシェレ」(セゴレーヌ・ルメン著 吉田紀子訳 三元社)は7月25日から読み始めて、9月も終わりに近づく今になって漸く読み終わった次第です。遅読甚だしき言い訳として、「奇想の系譜」と「マルセル・デュシャン全著作」も同時に読んでいて、三つ巴の乱読があったためですが、この若い頃から続く私の癖はそろそろ止めようと思っているところです。「スーラとシェレ」は19世紀から20世紀に至る美術史の動向の中で、従来の絵画とポスターに代表される大衆美術との関わりを論考したもので、面白く読ませていただきました。著者ルメンに関して訳者が寄せている文章を引用すると「ルメンの研究に通底する手法を一言で述べるならば、未公開の資料として、これまで検証対象として扱われることの少なかった十九世紀フランスのポピュラー・イメージを貪欲に掘り起こして調査し、そうした実証的な手続きによる事実解明を、最新の文化研究の理論と対峙させるというものである。~略~モダニズムが等閑に付してきた、十九世紀の”純粋芸術”と”大衆芸術”との間で交わされたダイナミックなイメージの乗り入れを解き明かす作業が、この時期、美術史の新たな課題として浮上したのである。」とありました。ジョルジュ・スーラは新印象派の画家で、点描を考案したことはあまりにも有名です。ジュール・シェレはサーカスのポスターを数多く手がけたイラストレーターで、作品が大衆に迎合した媒体であったため忘却の一途を辿りましたが、シェレの視覚表現に斬新さを感じ、その要素をスーラが絵画に取り入れていたことは、私も知りませんでした。パフォーマンスの代表でもあったサーカスを通じて、2人の芸術家が結びついていた事実に、絵画表現を革新する動きは、思わぬところから始まっていくことを知った著作でした。

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