渋谷の「ベルギー奇想の系譜」展

昨日で終了した展覧会を取り上げるのは些か恐縮ですが、私は個人的に奇想の芸術が大好きなので、詳しい感想を述べさせていただきます。ベルギーという中央ヨーロッパに位置する国について私は深く考えたことがなく、20代の頃ウィーンに住んでいた時に、首都ブリュッセルと古都ブリュージュに立ち寄ったことがありました。ベルギーは緯度が高いわりに気候が穏やかであり、その歴史からすれば多くの周辺国の支配を受けていて、独立を果たしたのは1830年だったようです。絵画史で有名なフランドル地方はベルギーにあり、中世から伝わる写実主義描写に加えてキリスト教の神や悪霊の存在が信じられていて、その具現化に携わった画家ボスやブリューゲルはあまりに有名です。本展にはルーベンスの絵画も出品されていて、やや違和感がありましたが、図録の文中にその説明がありました。「ボスやブリューゲルの手により、いわば『フランドル的な』異種混同の悪魔に埋め尽くされていた『地獄』の情景は、巨匠ルーベンスによって、イタリア的な要素と結びつき、キリストの戦士たちの勝利を観る者に強く印象づけるバロック美術特有のドラマティックな構図へと生まれ変わっている。」(廣川暁生著)さらに本展には、近現代の画家マグリットやアンソールも出品されていて、ベルギー美術全体を俯瞰できる内容になっていました。現代に通じる部分に関してはこんな一文が図録に掲載されていました。「ベルギーのアート(とアーティスト)のヴィジョンは、世界で進行中の事象に対するほぼ地理的に持って生まれた受容性と、また、その覚醒した意識の武器=ほぼ生物学的に生来のアイロニーのセンスとして、定義することができる。」(伊藤伸子著)どこか覚めた感覚というか、乾いたユーモアをベルギー現代美術を見て私は感じましたが、宗教から離れた事象に関しても、奇想が現代社会に生きていて、それが芸術家を動かしているパワーになっていると思いました。

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