マニエリスムについて

先日、国立西洋美術館で見た「アルチンボルド展」は、自分にとっては懐かしい過去と出会うひと時でした。アルチンボルドはオーストリアのハプスブルグ家で活躍した画家で、ウィーン美術史美術館にはアルチンボルドの絵画が多数収められています。30数年前、私はウィーンで5年間暮らしていました。美術史美術館でアルチンボルドを見る機会も多く、まだ当時はウィーン幻想派の画家たちが活躍していたので、彼らの幻想の源にボスやブリューゲル、そしてアルチンボルドがいたことが明白に伝っていました。イタリアでのルネサンス以降、ダヴィンチやラファエロ、ミケランジェロの三大巨匠に追従し、その様式を模倣する動きがありました。それはルネサンスの調和の取れた表現やバロックの躍動する表現とも異なる特異な表現で、マニエリスムと呼ばれています。マニエリスムは、ヴァザーリによって「自然を凌駕する行動の芸術的手法」と定義づけられていますが、極端な強調や歪曲による表現が横行し、その生気の欠けた作品群は芸術の衰退を意味していました。マニエリスムが再び美術史に登場してくるのは、20世紀に入ってからで、シュルレアリストによって再び見いだされたのでした。マニエリスムの特異な表現は、現代の超現実主義に共通する要素を持っています。日本でも過去活躍した奇想の芸術家が、現代になって脚光を浴びているケースがあります。昨年の若冲の人気も今年のアルチンボルドの人気も現在に通じる美的価値観を持っていると言えるのではないでしょうか。

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