映画「ヒトラーへの285枚の葉書」雑感

先日、横浜のミニシアターに「ヒトラーへの285枚の葉書」を観に行きました。お盆の時期のためかミニシアターは観客がほぼ満席状態でした。自分は意識していなかったのに結果的には終戦記念日に相応しい映画を観たことになりました。「ヒトラーへの285枚の葉書」は実話に基づいた映画です。原作はドイツ人作家ハンス・ファラダで、ゲシュタポの記録文書を基にした「ベルリンに一人死す」に記されたハンペル夫妻の行動を映画化したものです。映画では原作にない周辺人物たちが登場していますが、戦時下におけるベルリンの市民生活を今に伝えるための工夫と解釈しました。時代は1940年、フランスに勝利したナチス政権で、戦況に沸き立つベルリンが舞台です。軍需工場で職工長をやっているクヴァンゲル(実話はハンペル)の元に一人息子の戦死を伝える手紙がやってきます。忽ち喪失感に打ちひしがれる夫妻、やがて夫はペンを手にしてカードに怒りのメッセージを書き始めます。政権を糾弾するメッセージを街のあちらこちらに置く夫妻、その数は285枚に上り、ゲシュタポの警部の捜査が始まります。大佐の圧力から誤認逮捕をしてしまい、追い詰められた警部がついに夫妻のところに現れるのでした。解放や自由という人間の尊厳を取り戻した夫妻が凛として刑場に向かうシーンで終わりますが、逮捕した警部もまた束になった葉書を前に自らの命を絶つラストがありました。平凡な労働者階級の夫婦がペンだけでナチス政権に抵抗した実話を知ると、ヒトラーに反感を持っていた人々が多く存在し、何らかのレジスタンスがあったと考える方が妥当でしょう。日本の近隣にも独裁国家がありますが、果たしてそこに生活する人々はどうなのか、現代にも通じる課題が突きつけられた映画だと思いました。

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