六本木の「ジャコメッティ展」

スイス人の彫刻家・画家アルベルト・ジャコメッティは、NOTE(ブログ)に幾度となく登場しています。それほど私が気になって仕方がない芸術家なのです。学生時代に針金のようになったジャコメッティの人体像を見てから、30数年もずっと惹かれていました。理由もなく惹かれるのは彫刻家若林奮にも言えることで、彼らには私を捉える何かがあると思っています。ジャコメッティにはデッサンや油絵もあって、とくに油絵は灰色の画面に現れてくる正面を向いた人体に、対象を描いては消し、また更新しては消去する繰り返しが見て取れます。その追求した痕跡が印象に刻まれてしまい、完成よりも途中過程の方に彼が求める芸術があったのではないかと思うほどです。針金のように量感を削り取った人体塑造も、初めから細く作ろうとしたのではなく、眼に見えるカタチを追求した結果、あのようなカタチに辿り着いた感じがしています。そんなジャコメッティの展覧会が東京六本木の国立新美術館で開催されているので見てきました。私は20代の頃に人体塑造をやっていたおかげで、ジャコメッティの人体像がある程度理解できます。空間に粘土でデッサンするよう指導を受けて熱心に人体塑造をやっていた私は、人と競って巧みに作ることに拘っていましたが、ある日、学生たちが作った人体像がビニールをかけられて林立する大学の工房の雰囲気を見て、亡霊のように存在する像そのものに、空間とは何かを自問したことがありました。それは街の中をすれ違う人々の空気を感じ取った瞬間でしたが、ジャコメッティの世界にも共通する空間解釈があるように思えます。幻のようでいて確固たる存在がある空間造形、それがジャコメッティかもしれません。図録にこんな一文がありました。「存在を限界まで削り落としつつ存在を限界まで主張するという逆説を孕むがゆえに、さまざまの社会を規定する文化的構造の一切を乗り越えて、人間の運命を表現するという次元に到達している。」(マーグ財団美術館館長オリヴィエ・キャプラン著)ジャコメッティについては、また別の機会にNOTE(ブログ)で取上げたいと思います。

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