映画「残像」雑感
2017年 8月 3日 木曜日
ポーランドを代表する映画監督アンジェイ・ワイダが昨年10月に亡くなり、遺作「残像」が上映されました。東京の岩波ホールでは既に上映が終わりましたが、横浜のミニシアターはこれから上映する予定になっています。映画では実在した前衛画家ストゥシェミンスキを主人公にしていますが、ワイダ監督自身もクラクフ美術大学を中退し、ウッチ映画大学に転学したことがあり、当時美大を席巻した社会主義的リアリズムを拒んだ経緯があるようです。ストゥシェミンスキは、自国ポーランドがソビエト連邦の勢力圏に組み込まれ、一党独裁体制が確立される中で、死に至る最後まで自由を求め抵抗し続けた画家でした。ストゥシェミンスキは革新的な造形理論でも国際的に評価されていて、ウッチ美術館や造形大学の創設にも関わった実力者だったようですが、政治によって葬り去られた画家でした。私もその名を聞いたことがなかったので、現代美術史の中では忘れられた存在なのでしょう。映画では芸術家としての英雄像を描くことがなく、寧ろ次第に社会的にも経済的にも追い込まれていく人間を描き出しています。映画のあらゆる細かな場面にも全体主義国家の危うさが描かれていて、その対岸にある前衛芸術との狭間が埋められることなく映画は終わります。観ている私たちに強烈なメッセージを残して…。ワイダ監督自身の生涯揺らぐことがなかったたったひとつの主張が心に残りました。「残像」とはストゥシェミンスキの絵画の題名から取っているようですが、映画全体の印象が残像として刻まれたように私には思えました。
関連する投稿
- 新作完成の5月を振り返る 今日で5月が終わります。今月は個展図録用の写真撮影が昨日あったために、これに間に合わせるために夢中になって制作に明け暮れた1ヶ月だったと言えます。31日間のうち工房に行かなかった日は2日だけで、29 […]
- 映画「JUNK HEAD」雑感 昨晩、久しぶりに横浜の中心街にあるミニシアターに家内と行きました。レイトショーであるにも関わらず、上演された映画の客の入りは上々だったのではないかと思いました。映画「JUNK […]
- 創作一本になった4月を振り返る 今日は4月の最終日なので、今月の制作を振り返ってみたいと思います。今月の大きな出来事は、長年続いた教職公務員との二足の草鞋生活にピリオドを打って、創作活動一本になったことです。これは自分の生涯の転機 […]
- 映画「異端の鳥」雑感 先日、川崎駅前にある映画館TOHOシネマズへ「異端の鳥」を観に行ってきました。本作を私は新聞で知りましたが、上映館が少ないため自宅近くの映画館を探して、しかも深夜の時間帯に行ってきたのでした。家内が […]
- 映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」雑感 昨晩、家内と横浜市都筑区鴨居にある映画館に、今話題となっているアニメ映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」を観てきました。「新世紀エヴァンゲリオン」は20数年前に社会現象となり、私もそのアニメーション […]
Tags: 映画
The entry '映画「残像」雑感' was posted
on 8月 3rd, 2017
and is filed under note.
You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.
Both comments and pings are currently closed.